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「…私もかつて、そう思っていた時がありました。」
たっぷり間を空けて彼女が口を開いた。ひび割れたレンガ道に生える雑草を意味も無くぶちぶち抜いていた手を止めて、しゃがんだまま彼女に視線を向ける。草の汁だらけになった手から、青臭い様な匂いが漂った。
「─仲間を、父を守れず。何もかもを見捨てて逃げるという選択しか取れなかった自分が憎くて、殺した相手よりも憎くて堪らなかったんです。」
マスターさんからそこまで詳しい事は聞いていなかったから、思いもしなかった事情に少し驚く。そうして、こんな立派な『英雄』に選ばれるような人も、私みたいな人間と同じ想いを抱いていた事に─何だか、お腹の奥がざわりとした。
「使命を終えた今は、あの時ほどの激情はありませんが…時折、思い出します。そして、自分を殺したいという感情の裏に、傲慢にもこんな思いがあった事に気づいたんです。」
「それって、」
自分を殺してしまいたいという感情の、裏。初めて考えるはずのそれに、何故か心当たりがある気がした。
「─『自分なんて死ねばいい。殺したい。でも、』」
「…『それでもだれかに、生きてもいいとゆるしてほしい』…」
ぽたり。地面に伏せていた手の甲に雫が落ちたような感覚に、首を傾げた。あれ、雨なんて予報なかったはず。じゃあこれは、なんだろう。
「Aさん。」
ざく、ざく。土と草を踏んで、彼女が私に近寄った。名前を呼ぶ声に顔を上げれば、視界が酷く歪んでいたけれど、呼吸は正常で。立っていた彼女がしゃがんで視線を合わせて、歪む視界を白魚のようなその指で拭った事で漸く気づく。
─ああ、わたし、泣いてるんだ。
悲しい訳じゃない。苦しい訳でも痛い訳でもない。でもそれはお話の中だけで、まさか自分が経験するなんて、思ってもみなかった。
「大丈夫、大丈夫ですよ。」
「ぁ、ルキナちゃ、」
「─私が、貴女の事を許します。貴女が、Aさんという人が生きていていいのだと、胸を張って言いますから。」
「っう、ぁ…あ…！」
─まさか、嬉しくて泣くなんて。
すっぽりと包まれた身体があたたかい。2人分の鼓動が溶け合って、ひとつになっていくような。
10年以上もあった息苦しさは、衝動は。すぐには消えてくれないだろうけど。でも私は、漸く私を殺す為以外に息ができる。
この子が私を許してくれるのなら。私もこの子の生を許そう。私の命を、彼女を許し続ける為に費やそうと、そう思うのだ。
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麗 - マヨナカコープ、ありがとうございます！ジョーカーとウルフ、どちらも好きなキャラなので、ありがとうございます！ (2019年9月28日 20時) (
レス) id: d0864ff377 (このIDを非表示/違反報告)
麗 - 全然！1年経ったって、(？)いくらでも待ちます！頑張ってください、応援してますよ、チイチさん！ (2019年9月15日 15時) (レス) id: d0864ff377 (このIDを非表示/違反報告)
チイチ(プロフ) - 麗さん» はい、麗さんこんにちは！(^^) リクエスト有難うございます！喜んでお受けします！ただ、日替わりの消化も済んでいないので完成は少し先かも知れません…どうか気長にお待ち頂ければと…！ (2019年9月15日 13時) (レス) id: a34c130848 (このIDを非表示/違反報告)
麗 - こんにちは(｀・ω・´)麗です(｀・ω・´)……はい、こんにちは！あの、リクでウルフとジョーカーが夜の散歩をしているお話を書いて下さい！それを夢主ちゃんが見ちゃった……的な？ (2019年9月15日 12時) (レス) id: d0864ff377 (このIDを非表示/違反報告)
チイチ(プロフ) - ロランさん» いえいえ、喜んで頂けたみたいで、とても恐縮です…！ 此方こそリクエスト有難う御座いました！ また機会があれば、よろしくお願いします(^^) (2019年8月21日 16時) (レス) id: a34c130848 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：チイチ | 作成日時：2019年1月19日 0時
