ねむる。 ページ16
「ね、っまるす、さ、」
「っキリア、だめ、だめだ。それ以上は、もう、君が…！」
必死に僕の命を途切れさせまいとする彼を、目で、制する。
いいんだ。だってもう、僕は助からないのだから。とうに、手遅れだったから。
ねえマルスさん。僕には一つだけ、やってみたかったことがあります。
皆を裏切ったけれど。化け物の子供でしかなかったけれど。
でも、こんな僕でも─
「ふつうにいきて、みたかった、な…」
ごぽり。血が、零れ落ちる。
普通、ふつう。ふつうって、何だったのかな。
分からない。でも、僕はそれが欲しかった。
…今ならわかる。僕は、それを望んではいけなかったのだと。
それを、��普通��を望むことそのものが、
「…君は、キリアは、普通の男の子だよ。少なくとも、僕や、カービィ君にとっては。普通の男の子で、大切な、友人だよ。」
─だから、貴方のそんな言葉は、まるで予想外で。
今にも落ちてしまいそうな瞼を、寸前で押し留める。そうして、貴方の目を見つめた。
青く、蒼く、何処までも透き通った色。
…僕の好きな、空の、色。
「……そ、っかぁ…」
「……キリア？」
きっと、こんな僕を、世界は、人々は化け物と。若しくは、化け物の子供と呼ぶのだろう。
けれど、ここに。少なくとも二人。僕の事を、普通だと、普通の男の子なのだと、言ってくれる人が居る。
…それは。嗚呼、なんて─
「ぼく、は…しあわせ、ものだ、なぁ─」
「キリア─キリア！？だめ、だめだ、しっかりするんだ！キリア！！」
─からだがかるい、きがする。
あんなに苦しかったのに。まるで、うそみたいに。
本当に、僕は今きっと、世界で一番幸福だ。
ゆらゆら、ぷかぷか。意識が、自我が、泡のように浮かんでは消えていく。
これで、おわりなんだ。なんだか、思っていたよりも、怖くない、な。
暖かくて、ふわふわして。
きっと、お母さんのお腹の中って、こんな感じなんだろう。
─そうか。僕は、かえるのか。
─キリア
…お母、さん？
─キリア。おいで。大丈夫、お母さんと一緒に寝よう？もう、疲れたでしょう。
…うん、うん。そうだなぁ。僕、だいぶ疲れちゃった。いっぱい、頑張ったから。
優しい甘やかな声が、眠りに誘う。
それに身を委ねる直前、僕は祈る。
─どうか、またいつか。あの人と彼に、会えますように。
…そうして、漸く。
長い、永い眠りが、訪れた。
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作者名：チイチ | 作成日時：2019年1月6日 4時
