ちる。 ページ15
＊
身体を包み込む懐かしい温度に、目を開けた。
視界が、随分と悪い。ぼやけている。あれ、そういえば、随分と長く眠っていたような気がするなぁ。今は、一体いつなんだろう。
何だか、変だなぁ。温かいモノに包まれているのに、身体の中に、冷たいモノが入っている感じがするんだ。変なの。
─、？ー、ー！
、あれ。なんか、何だろう。息が、苦しい。
そういえば、温かいこれは、何だろう。
…誰、だっけ。
＊
「─っ、キリア！！」
「…ま、るす、さ、」
ぼやけていた視界が晴れる。それでも決して良いとは言えないけれど、十分だった。
声が、上手く出ない。絞り出したけれど、すごく、いたい。
ぽた、と温いものが頬に落ちた。
─マルスさん。どうして、泣いてるんですか。何か、ありましたか。
声が、出ない。身体も、動かない。
唯一自由のきく視線だけで、辺りを見る。そうして、自身の体…胸の辺りへと向け─そこに突き立てられた、彼の人の神剣を認めて。ぼくは、全てを理解した。
嗚呼、彼はやってくれたのだ。僕の願った通りに、全てを。
「キリア、キリア、すまない、僕は、君を、」
「、い、んです、よ。これ、で、よか、た」
ああ、うまく言葉を紡げない。もどかしい。
口内に迫り上がる血が、溢れて、口元から零れていく。
伝えたいことが、いっぱいある。謝らなきゃいけないことも、沢山。
でも、死は。待っては、くれない。
だから─これだけは、伝えなきゃ。
「ま、るす、さん。」
「…何だい、キリア」
「あり、がと、ござ、まし、た、」
彼が、濡れた蒼い目を大きく見開く。
そうして、また顔を歪めて。痛いくらいに、僕の身体を抱き締める。
感覚の殆ど失われた手足─その末端から、残っていた僅かな温度が、命が、じわじわと消えていく。
ああ、やっぱり怖い、なあ。
でも、最期に貴方が居てくれるなら。僕は、それだけで─
「─許してくれ、キリア。」
僕は、君を救えなかった。君の声に気づくには、あまりにも、何もかもが遅すぎた。
震えた声で紡がれる懺悔に、僕は僅かに首をゆるりと振る。
だって、貴方は何も悪くないのだ。全ては、僕が招いたこと。だから、もう泣かないで。
「…君は、どうしてそんなに─」
嗚呼、痛い。苦しい。
声が、音が、遠い。
もう、自分が何を考えているのかも、よく分からない。
けれど、心臓を貫く剣の冷たさが。零れ落ちる血の温さが。身体を包む腕の温かさが。まだ、僕の生を赦していた。
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作者名：チイチ | 作成日時：2019年1月6日 4時
