《スマブラSP》やぁやぁ、はじめまして！《亜空の使者編Ⅱ》 (ページ7)

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　Ⅰ．雨のち晴天ページ7

大切なものをどこかへ置き去りにしたような─否、事実置き去りにしてしまった少年は、半ば死人のような顔で雨上がりの道を歩いていた。足元で窪地に溜まった泥混じりの水がパシャリと跳ねる。

「……ネス…」

　光に貫かれる寸前に見た彼の顔が、脳裏に焼き付いていた。彼は、自分を犠牲にしてまで逃がしてくれたのに。自分はただ逃げ出す事しか出来なかったのだ。

　これからどうすればいいんだろう。本当は今すぐにでも、彼を取り戻しに行きたい。けれど、あのワリオの顔を思い浮かべると、リュカの足はどうしたって竦んでしまうのだ。
　こんな自分じゃ、彼を助けに行けるわけない。こんな弱い自分じゃ─

「…うわっ！」
「っと……人…？」

　ふと、何かにぶつかって視線を後方から引き戻した。困惑したような声は、自分より少し上から降っている。

　赤い帽子に、跳ねた短い髪。リュックや身につけたベスト、靴は、一目見ただけでわかる程に使い込まれている。見覚えの無い1人の少年が、不思議そうに自分を見下ろしていた。

「…キミ、」
「あ…その……」
「─！ごめん、ゆっくりしている暇は無さそうだ。」

　え、とリュカが声を上げる前に、見覚えのある物体─黒紫の粒子が、どこからか2人の前にわらわらと集まり、リュカにしてみればもう見たくもないような形…プリムを形成する。
　つい先程までの地獄のような鬼ごっこを思い出し、ひっと小さく悲鳴を上げて後退りかけた彼の肩を、暖かい手が押し止めた。

「え、」
「本当は、ちゃんと自己紹介した方が良いんだろうけど……取り敢えず、まずは此処を切り抜けよう。」

　1人じゃない、だから平気だ─続けられたその言葉に、リュカの折れかけていた心の芯に火が灯る。そうだ、こんな所で立ち止まってたら、彼を助けるなんて夢のまた夢じゃないか。

　様子の変わったリュカに気づいてか、帽子の少年が肩から手を離す。そして反対の手が、身につけたベルト─そこで静かに時を待つ、赤と白の球体を掴み取った。かちりと慣れた感触と共に片手で漸く掴める程に膨張したソレを、軍団と自分達との間に、いつもの様に投げ込めば。

「─いけ、ゼニガメッ！」
「ゼニィッ！」

　相棒の1人であるかめのこポケモン─ゼニガメがその丸い体を震わせ降り立った。その隣、リュカが精神を集中し、指先に閃光を灯す。

　偶然か、必然か。雨後の出会いを果たした彼らは未だ互いの名前すら知らず─今はただ、目の前の敵を同じ気持ちで睨んでいた。