IV ページ42
この人は、私がここで頷かなければ壊れてしまうと。ふと過ぎったその予感は、無視するにはあまりにも大きすぎるものだったのだ。
彼が酷く震えていたあの日に、彼に請われその手を握った。怯えるようにゆっくりと絡められた冷たい指を包み込むように握れば、強ばっていた彼の表情が和らいで、その様子に自分自身が深く安堵したのを覚えている。
彼はあの日以来、時折私の元を訪れる事があった。甘え方を知らない、不器用な幼子のように腕を伸ばす彼を拒絶することなど、どうしてできようか。自分に出来ることであればやりたいと思う性格も相まって、私は彼の思うままに身を任せた。
その時間には少しの色の気配も無く、ただ人の体温を切に求めようとする彼に、私も求められたものとして応えていた。
「A、おはよう。良く眠れたかな。今日は何が欲しい？何をしたい？君の行きたい場所に行こう。昨日は、僕が付き合ってもらってしまったからね。」
部屋のドアが開く。薄闇の中に差し込んだ光に希望を、助けを求めていたのはいつまでだったか。…いや、そもそも初めから、何処にも、何にも助けなんて求めていなかったのかも知れないけれど。纏まらない思考回路に、内心で苦笑する。─嗚呼。これはもう、戻れないところまで毒されてしまったのかもしれない。
「…大丈夫、です。マルスさんは何がしたいですか？」
「おや、そう来たか…これは困った。何しろ僕のやりたい事は、昨日一日で粗方片付いてしまったからね。ふむ…」
「それなら、今日は一日一緒に居ましょう。…あ、勿論マルスさんが嫌でなければ、ですけど。」
するりと口から零れる言葉は、確かに自分のもの。相手に媚びるような、愛されているか確かめるかのような言葉は、私なら決して言わなかったはずなのに。今は、それを口にすることに僅かな抵抗も無いのだ。
「…ふふ、嬉しいことを言ってくれるんだね。でも、A。僕が君と一緒に居たいなんて、朝が来て夜になるくらいに当たり前の事だろう？」
すり、と彼が私の腕を取って擦り寄る。そのまま視線が合えば、歌うように「愛しているんだから」と囁いた。
…彼は、私が居ないときっと壊れてしまう。そうしてしまったのは、私だ。だから私は責任を取らないと。彼が愛して欲しいというのなら、喜んで愛そう。
─「それで幸せか」と、心底からの咎めるような声。原型を見失うほどに融けてしまった私にそれが聞こえる事は、最早無い。
＊
─ 蒼星メルトダウン ─ END
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チイチ(プロフ) - 降魔さん» 降魔さん、こんにちは(^^)コメント有難うございます！悲鳴が出るほど喜んで頂けたのなら、書き手としてもこれ以上ないくらい嬉しいです…！前にブラックピットを楽しみにしているというコメントを頂いてから、私自身書くのが楽しみでした！これからも頑張ります…！ (2019年12月17日 1時) (
レス) id: cd3ca817f7 (このIDを非表示/違反報告)
降魔(プロフ) - ひぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!! ブラックピットやぁぁぁぁぁぁぁ!!!! チイチさんて天才っスよね……!!! これからも頑張ってください！ (2019年12月16日 18時) (レス) id: 6d6843d9f1 (このIDを非表示/違反報告)
チイチ(プロフ) - 水城さん» こんにちは！コメント有難うございます…！コメントの全てが私には余りにも勿体ないものばかりで恐縮です…！ちょっと嬉し過ぎて文脈がおかしいかもしれないですすみません…！これからも意欲の続く限り執筆していきます…！本当に有難うございます！ (2019年12月15日 15時) (レス) id: cd3ca817f7 (このIDを非表示/違反報告)
水城(プロフ) - いつもチイチ様の作品を拝見して、文章の構成や内容の素晴らしさなどに圧倒されている者です。チイチ様の描く人物たちが本当に好きで、この度マルス様の話が追加され耐えきれずコメントしてしまいました……これからもお身体を大切に、作品をつくって下さると嬉しいです (2019年12月15日 8時) (レス) id: 29a05cdac9 (このIDを非表示/違反報告)
チイチ(プロフ) - あるふぁさん» こんにちは！コメント有難うございます(^^) 楽しみと言って頂けて本当にとてもとても嬉しいです…！それだけに長らくの間更新停滞してしまった事が申し訳なく…年末にかけてどんどん更新していくので、宜しければこれからも見てやってください…！ (2019年12月11日 0時) (レス) id: cd3ca817f7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：チイチ | 作成日時：2019年8月14日 2時
