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やっぱりうちに花瓶なんてなくて、昔結婚式の引き出物でもらった大きめのグラスを棚の奥から引っ張り出した。
「グラスかよ」って、風磨くんに突っ込まれたけれど、こんな花束を貰う機会なんてそうそうない
風磨くんから渡された袋を開けると、キラキラとした焼き菓子がたくさん詰まっていて、「美味しそう……」って思わず言葉が漏れる
「風磨くん、どれ食べる?」
私のその問いに彼は少しだけ眉を上げて、だけどそれを隠すようにスッと近づくと、私が手に持っている紙袋を覗き込む。
ふわり、香水のようなシャンプーのような、柔らかい香りが鼻を掠めて、思わず身じろいだ。
顔が、近い
「なんでもいーや」
「そう?」
「A好きなの選んで」
吐息が、伝わりそうな距離
目の前の彼は柔らかく微笑む
高鳴る鼓動には気づかないでほしいって、そう思ったけれど、そうもいかないようで
風磨くんは私の髪をかき分けるように、手のひらを私の頬に伸ばした
「顔赤いけど」
どうかした?なんて、憎たらしい顔
確信犯のくせに
「……どうもしない」
「ちょっとは警戒してくれてる?」
流れてしまった甘い空気を、私は持て余す。
どう答えていいかわからずに口籠ると、視線の先の風磨くんが、くすりと笑った。
「平気で俺のこと家にあげるしさ」
「それは、」
「好きって言ったの忘れちゃった?」
ぐうの音も出ないとはこのことか。
風磨くんに口で勝てる気はしない。
「……忘れてません」
「ならいいけど」
頬に寄せた手のひらは、そのままするりと私の髪を撫でて、離される。
微かに残る温もりを覆うように、私は自分の頬に手を寄せた。
どうしようもなく風磨君に惹かれている自分に罪悪感を感じて、
「コーヒーいれるね」と、言い残すと、気持ちを誤魔化すように私はキッチンへ逃げた。
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作者名:しい | 作成日時:2024年2月7日 15時