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寒さは、日を追うごとに深まっていく。
風磨くんとも彼氏とも、あまり連絡を取らないまま日々は進んでいった。
私は未だに、風磨くんの告白は無かったことにできないかな、なんて、そんな事を考えていて
その裏にあるのは、このまま風磨くんと接していたら、自分の気持ちが持っていかれそうだという自覚。
彼氏に会えていれば、少しは気持ちも違ったかもしれないのに、その肝心の彼氏は口癖のように忙しいと言って、電話もままならない
『いま、家にいる?』
仕事も終えて、すっかりリラックスモードの時間に、そんな連絡をよこして来たのは彼氏ではなく風磨くんだった。
家に、いるけど…。
もう極力会わずにいようと決めていたのに
私は少しだけ返信に迷って、だけど嘘をつくことはどうしてもできず、正直に在宅を伝える。
『これからいくわ』
そのメッセージを受けてから、風磨くんが家のチャイムを鳴らしたのはほんの数分後だった。
部屋着だけど少しだけ身なりを整えて、そっとドアを開ける
風磨くんの顔を見るより早く、目の前にバサっと現れたのは大きな花束で、「えっ」と声を漏らした。
「貰った。」
「そうなの?」
何か大きな仕事でも終えたんだろうか……両手に余るほどの花束。
うちに花瓶なんてあったかなぁ
「あとこれも」
「これ、すごく並ぶところの!」
掲げられたのは煌びやかな紙袋に入った焼き菓子。2時間待ちとか3時間待ちとか言われる最近人気の洋菓子店のものだってすぐにわかった
思わずキラキラとした瞳むけてしまって、そんな私の様子に風磨くんが、耐えきれずにふはっと笑う
「絶対、Aが好きそうだと思ったから」
「ありがとう」
コーヒーと一緒に食べようとウキウキしてると、風磨くんがなかなか玄関から上がってこないことに気づいた。
「どうしたの?入りなよ」
「いや、入っていいのかなって」
「どうぞ?」
いつもは聞かないで入るくせに、今更どうしたっていうんだろう
私が何の疑問もなく中に招くと
「おじゃましまーす」って、風磨くんは呟くように言って、履いていた高そうなスニーカーを脱ぎそろえた。
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作者名:しい | 作成日時:2024年2月7日 15時