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「なんか怒ってる?」
「全然。」
先ほど風磨くんが肩に回した手は自然に下がっていって、腰に回る。
まだ彼氏と離れて少ししかたってないし、見られてるかもしれないし、風磨くんといえども流石にこれは……って思って、後ろが気になってしまう
「はい、よそ見しない」
風磨くんは、振り返ろうとした私をぐっと抑えて、前を向かせる。
半ば強引に後部座席に押し込まれて、文句を言おうと顔を上げた先にあった風磨くんの表情は険しい
やっぱりどこかイラついているようなそれに、私は何も言えずに、そっと口を閉じた。
窓の外はキラキラとしたイルミネーションに彩られていて、寒い冬の街並みを少しでも暖かく照らしている
遅い時間だし、人の量は少ないけれど、寒さから逃れるように肩を寄せ合いながら歩く見知らぬ恋人たちを見て、羨ましい気持ちを抱いてしまう
あんな風に、最後に彼とデートしたのっていつだったっけ。なんて。
「いいなぁ」と、思わず漏れた声は、風磨くんの耳に届いた
「Aはさ、」
「うん?」
呼ばれた名前に、視線を運転席の風磨くんに向けた。
だけど進行方向を見つめる彼の表情は、後ろからでは読み取ることができない。
風磨くんはその続きを言おうと口を開いたけれど、少し迷ったように一度閉じて、改めて、言葉を流す。
「……帰る?このまま」
「え?」
「俺の家いく?」
「……は?」
いやいや無理でしょ、帰る帰る。
って顔をすれば、ルームミラー越しに私の表情を確認した風磨くんがふはっと笑った。
「うっそー。残念ながら俺明日早いんで」
「いや、からかわないでよ。」
「送るね、ちゃんと」
風磨くんのその声があまりにも優しくて、私は思わず口籠った。
その甘い声で言われたら、誰だってときめいてしまう。そんな風に思って自分の中の罪悪感を正当化する。
いつも通りの、そんなやりとり。
だけど、なんとなく、なんとなく風磨くんは、さっき本当は何か違うことを言いたかったんじゃないか、って、私は心の中でそう思った。
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作者名:しい | 作成日時:2024年2月7日 15時