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そろそろいい時間だななんて思った頃。お会計はわからないうちに風磨くんが済ませてくれていた。
そんなスマートな彼に、恋をしない人なんているんだろうか。
「なに?」
お店から出て、戻った地下駐車場は薄暗く空気が悪い。
じっとその綺麗な顔を見れば、風磨くんは訝しげな表情で視線を返す
「できた男だなぁって」
「え、なに、褒められてる?」
「褒めてる」
「ありがとうございまーす」
そう言いながら、風磨くんは私をみて「結構酔ってるしょ」って笑った
酔っている自覚はある。最後の一杯が余計だったかなぁとフワフワした頭で思いながら、風磨くんの後ろをついていく。
どこかから開いていた車のエンジン音が止まった
ピタ、と、突然足を止めた風磨くんの背中に、ぶつかりそうになって私は顔を上げる
「え、なに?」
「……いや」
何かを誤魔化そうとしてる表情
その視線の先を追って、「あっ」と声を上げたのは私だった。
「A?」
こちらを向いた彼は、不意に私の名前を呼ぶ。
スラッとしたスーツ姿。
見慣れたそれは、私の彼氏だって頭が判断するまでに時間はかからなかった。
今日は風磨くんと飲みに行くって連絡入れているし、やましいことは何もない。
駆け寄ろうとする私をみて、彼が慌てて車のドアを閉めた。
「仕事は?」
「あー、これからまた上で」
「こんなとこで?」
「接待なんだよ」
「そっか。何時に終わるの?待ってようか?」
「え、いや」
助けを求めるように彼は風磨くんに視線を送る。
風磨くんは分かりやすくため息を吐くと、私の肩に手を回して、口を開いた。
「せっかく飲まなかったんだから俺に送らせてくれる?」
「俺も遅くなると思うから、風磨に送ってもらって」
しどろもどろな彼に違和感を感じながらも、風磨くんの顔が近い事に不覚にも動揺する。
胸に抱いた罪悪感を誤魔化すように、私は素直に頷いた。
目の前の彼氏があからさまにホッとしたのが解った。
「じゃあ、風磨、頼むわ」
「言われなくても」
心なしか冷たい風磨くんの声
ひらひらと手を振る彼氏に見送られて、肩に回された風磨くんの腕に誘導されるように、私は踵を返した。
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作者名:しい | 作成日時:2024年2月7日 15時