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しばらく走った車は、ゆるりとどこかのビルの地下駐車場に潜り込んで
地下から直通のエレベーターに乗って着いたそこは、明らかに会員制のお店だった。
「いやいやいやいや」
「いやが多いな。」
「いや、無理。芸能人とか来るとこじゃん」
「いちおう、芸能人ですから」
隣に並ぶ風磨くんは、得意げにそう言うと、慣れた手つきでお店のインターフォンを鳴らす。
慣れてるっていうのもなんか嫌だなって思ってしまう私は、どこまでも矛盾している
個室に通されると思っていたけれど、意外と案内されたのはカウンターだった。
周りが気になってそわそわする私に「詮索するようなやつが来るところじゃないから」と風磨くんは笑った。
かっこいいな。と、思わず声が出そうになって飲み込む。
「何頼めばいいかわかんない」
「適当に頼もうか?」
「うん」
素直にうなずく私に、風磨くんはひとつ笑みを落として、頬杖をつくと私の方に顔を向ける
「ねぇ」
「ん?」
「俺だって男なんですけど?」
会話の意図が見えず、きょとんとしていると、風磨くんの手のひらが伸びてきて、私の髪を一束すくって、そっと耳にかけた
「わざと強い酒飲まされたらどーすんの?」
少し距離を詰めて、小声で言われた
思わず顔が赤くなるのが自分で分かる
暗がりだから気づかれないだろうか
「……風磨くんはそんなことしない」
「まぁ、ね」
かろうじて強がった言葉に、風磨くんは口先を上げると、小さく息を吐く
気を取り直したように、遠くでグラスを片付けている店員を呼んで、私でも知っている軽めのお酒を頼んでくれた。
今までとはあまりにも違う風磨くんの態度に私は戸惑いを隠せない。
私を好きだなんて、本当なんだろうか
未だに信じられないその言葉を頭の中で反復して勝手に恥ずかしくなる。
当たり障りのない会話を、ぽつりぽつりと交わして場をつなぐ。
暫くして綺麗な色のカクテルと、おしゃれなグラスに入ったウーロン茶が目の前に静かに置かれた
「待って、お茶って」
「車ですし」
「そしたら私も、それで……」
「Aは飲みなよ。せっかくだし」
「え、なんか悪い」
「俺も飲んでもいいけど、泊りになっちゃうよ?」
その、からかうような瞳が私は苦手だ
何か反論しようと思ったのに、私の唇はその人差し指で制されて、口を紡ぐ
「はい、かんぱい」と彼に言われるがままに、私はグラスを傾けた
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作者名:しい | 作成日時:2024年2月7日 15時