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気まずい空気を纏ったまま車は走り続けて、ついた先は昔みんなで訪れたことがあるマンションだった。
風磨くんちだ。って、古い記憶を辿って思う
車を降りて無言で歩く風磨くんの後ろを、ただただ着いていく事しかできなくて、頭の中で言い訳を考えても何も思いつかない。
大きいロビーのオートロックを抜けて、気づいたら家の玄関に立っていた。
このままじゃダメだって顔を上げると、靴を脱ぎ揃えた風磨くんと目線が合う。
「……なんかあった？」
どこか呆れたような、だけど優しく問いかけてくる声色に、心の奥をぎゅっと掴まれたような感覚に陥る
「言いたくない？」
続く沈黙に、言いたくないなら聞かないけどって、付け加えた風磨くんは、どこまでも優しくて、だけどその表情は不安気だ
話さなきゃ拗れるだけだって、それは避けなきゃならないって、頭では解ってるのに言葉が出てこない
「……ごめん」
ぽつり、風磨くんが落とした言葉に、その意図が分からず、私は「え、」と、声を漏らす。
「もし、俺の気持ちが迷惑なら、ちゃんと言って」
「……違っ」
珍しく弱気な風磨くんに、そうさせているのは自分だって気づいて胸が痛む。
好きだって言ったくせに一方的に避けて、風磨くんを振り回してるのは、私だ
泣きたくなったけれど、そんな資格は私にはなくて、その涙を何とか飲み込むと、ゆっくりと口を開いた。
「……元彼が、来たの」
「……は、」
予想外だったのか、風磨くんの瞳が、動揺したように揺れる
それを正面から見ていられなくて、不意に視線を落とした
「何も、されてないんだけど。色々言われて」
「……うん」
「不安になっちゃって」
「何が」
「っ、私なんかが本気になっても、風磨くんはいつか離れていくって」
耐えきれなくなった涙が、頬を伝ったのがわかった
積を切ったように風磨くんが手を伸ばしたと思った瞬間、嗅ぎ慣れた彼の匂いでいっぱいになる。
「その俺が、どんだけ片想いしてると思ってんの」
そう言って私の肩口に顔を埋めた彼が、気持ちを吐き出すように長い息を吐く
「風磨くん」
かろうじて呼んだ彼の名前は、その胸元でくぐもった。
「あいつと寄り戻すとか、言われるかと思った」
「……それは、ない」
その言葉にふふと笑って、そっと身体を離して私を覗き込むと、とりあえず何か温かいものでも飲もうか、って、風磨くんは眉を下げて微笑んだ
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作者名：しい | 作成日時：2024年2月7日 15時
