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その瞳がパチリと合って優しく緩められる
高鳴ってしまう鼓動に、胸の奥が痛んだ

風磨くんが嘘なんてついてないって、そう頭ではわかっているけれど、全てを信じるには今の私には酷だった
この気持ちに名前をつけてしまったら、もうどこにも逃げられなくなる。
それが、怖い。

「……ごめん、1人で考えたい」

全て信じたふりをして、この温かい手を取ってしまうのが1番楽で、だけどもうこれ以上傷つきたくは無かった。
風磨くんは少し考えたような間の後、「わかった」と呟くように言葉を落とす。その表情は優しい。


「落ち着いたら、連絡して」

名残惜しいように私の頭を2、3度撫でると、風磨くんは立ち上がって上着を手に取る。
帰るんだってそう思って、さっき自分が言った言葉とは裏腹に寂しい気持ちが胸を掠めた
振り向いた風磨くんが、ふ、と眉を下げて微笑む

「そんな顔されたら、帰れないんですけど?」
「……え、」

私を覗き込んで少し揶揄うように言われて、思わず両手で頬を覆った
そんな顔って、今私はどんな表情でいたんだろう

風磨くんはおかしそうに笑うと、もう一度私の頭に手を置いてくしゃくしゃっと髪を撫でて、
だけど私を捉えた瞳は、ふと、真剣な色に変わる

「待ってるから」

そう真っ直ぐ告げられた言葉に、何か返そうと思ったけれど、開いた口からは空気が漏れるだけで、小さく頷くことしかできなかった。


風磨くんが帰った後の部屋は静かで、ふいに見渡すと、彼氏だった人の痕跡が所々にあって胸が痛む

ちゃんと好きだった。
楽しい時間もたくさんあった。
だけどどうして、お互いに違う方向を向いてしまったんだろう

私は適当な紙袋をがさりと広げると、目についた彼の痕跡を乱暴に袋に詰めていく。
耐えきれなくて溢れ出た涙は、何のせいかわからなかった。

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作者名:しい | 作成日時:2024年2月7日 15時

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