その恋を頂戴(f.k) (ページ14)

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何故か最後の別れを惜しむ彼氏に、優しくする余裕なんてなかった。
とにかく早く出ていって欲しくて、家に置いてある荷物は後日送るって、そう玄関から追い出す。

バタン、と、厚い扉が閉まる音が部屋に響いて、
残されたのは静まり返ったリビング
さっきまで風磨くんと座っていたソファーに倒れ込むように座ると、両手で顔を覆った。
気持ちを落ち着かせるように吐いた息が、静かな空間に響く

長年付き合った彼氏との別れより、頭に浮かぶのは風磨くんの事
風磨くんは、彼氏の気持ちがもう私にないことを知っていた。彼氏に私の事を頼まれていた。
好きって言ったのだって、ただの同情で、やっぱり本心じゃなかったんだって

そんな事ばかり考えている自分も大概で
浮気した彼氏を責める事なんて出来ない

テーブルの上に置かれたスマホが鈍い音を立てる。
着信の相手を確かめる気にもなれず、それが静まるのを私はただ待つ
一度静まったそれにホッとしたけれど、それは間を待たずに再び鳴り響いた

今は、誰とも話したくない。

クッションに顔を埋めて、鳴り止まない着信を無視し続けると、何度か繰り返したそれがようやく静かになった。

渦巻く気持ちはぐちゃぐちゃで、風磨くんのことも、別れた彼氏のことも、もう何も考えたくなかった。
全てから逃げてしまいたいって、そう思っていたのに

ガタン、と、玄関から大きな音がして、私はクッションから顔を上げた
さっき、彼を追い出した後、鍵をかけたかどうか思い出そうとするけれど、記憶は曖昧だ

足音が近づいてくる
玄関からリビングにつながる扉に向こう側から手がかかったのが解った
恐怖心が高まって、私はクッションをギュッと握る

「……なんで」
「鍵。渡された。……あいつに」
「もう……最低」

扉の向こうから出てきたのは見慣れた顔。
そう言って、私の家の鍵をかざしたのは、風磨くんだった。