（05.） ページ6
05.
.
気がつけば陽が傾き、窓から差し込む光は夕陽へと変わっていた。
樹は立ち上がり、台所へと向かう。
コンロの上に置かれた鍋には一昨日のカレーがまだ残っていた。
それに火をかけ焦げないように、慣れた手つきでかき回す。
『ピンポーン』
その時、ドアチャイムが鳴った。
古いせいで音程をはずしたその音が部屋に響く。
樹は面倒くさそうにドアに近づき、ゆっくりとそのドアを開けた。
｢こんばんわ!泊めて!!｣
そこに立っていたのは、Aだった。
しかしそのAは、学校での生徒会長としてのAとは違った雰囲気をまとっていた。
学校で見せる優美さや気高さは一切感じさせず、あどけない表情を輝かせている。
樹は何も言わず、彼女を部屋に入れてやった。
Aも遠慮なく部屋に入り、部屋に置かれた硬いベッドの上に寝転んだ。
｢随分とお疲れですね｣
｢さすがに新学期初日は疲れる、限界｣
｢朝の挨拶、すごかったもんな｣
｢…寝てたくせに｣
｢バレてたか｣
｢バレバレ、あん中で寝てたの樹だけだった｣
｢お前の声って、妙に眠くなるんだよ。昔から聞いてる声って、安心する。｣
｢それはどうも｣
ふたりの会話は、淡々としていた。
気を使ったりせず、思ったことをそのまま口に出す。
ふたりの関係は、樹が貧乏になっても変わらなかった。
樹は変えようとしたが、Aがそれを許さなかった。
樹がこんな生活になっても聖ノ石高校に通えているのは、Aの家が学費やら教材費やらを支払ってくれたおかげだった。
Aが樹と離れることを拒み、両親に頼み込んだ。
Aの両親も樹とその両親とは親しくしていたため、快くAのお願いを聞き入れた。
本当は、こんなボロアパートを引っ越しうちに来ないかとも言われたが、さすがにそれは断った。
樹にとってここは、たとえボロくても母親との最後の思い出の場所なのだ。
そこを離れることは、少しだけ、怖かった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 303人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さいか(プロフ) - ちいさん» お褒めの言葉、ほんっとうに嬉しいです(;_;) 最後までどうぞよろしくお願いします！！！ (2019年1月25日 20時) (
レス) id: f4b2406715 (このIDを非表示/違反報告)
さいか(プロフ) - ゆりさん» コメントありがとうございます！ ぜひ、最後まで楽しんでください！！ (2019年1月25日 20時) (レス) id: f4b2406715 (このIDを非表示/違反報告)
ちい(プロフ) - 初めて読んだ瞬間、なんて素晴らしい文章力だろうと感動しました。個人的に大我くんが好きなので、女の子と上手くいって欲しいな…と祈りながらも楽しく読ませて頂きます笑 これからも応援しています。 (2019年1月24日 20時) (レス) id: a3ba396e6d (このIDを非表示/違反報告)
ゆり(プロフ) - 今回の作品もとても楽しみにしています！ (2018年12月21日 11時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さいか
| 作成日時：2018年12月20日 23時
