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「あっ、彼だ」と思いながら画面に食い入るように見ると、美咲が菓子を食べながら、ぶっきらぼうに言った。
「名前は草川拓弥」
「クサカワタクヤ？」
「そう……。ねえ、今夜はホントに暑いねえ」と美咲は投げやりに言うと、雑誌を膝にのせたまま扇風機を自分の真横に引っ張って移動させた。
顔に風を直撃させて、「ふう」と大きく息をついている。
「く・さ・か・わ・た・く・や」と拓弥の映像を見ながら名前を呼んでみた。
もうそれだけで嬉しくなってくる。
テレビ画面の中は英語の授業中らしい。
拓弥が頬杖をついたまま、眠そうにぼんやりと黒板を眺めている。
「寝てる？」
「ううん。何か頭悪いみたい」
雑誌をめくりながら、無関心に遠慮なく言い放つ美咲にちょっとムッとするが、今はそんな美咲にいちいち文句を言っている暇はない。
草川拓弥くんの大事な映像を見逃してはいけないのだ。
画面では授業が終わって休み時間に変わったようだ。
急にざわついて教室から廊下に次々と人が湧いて出てくる。
これが高校かあ……。
たくさん人がいるんだなあ。
この人たちみんな友達なのかな？
みんなと一緒に何でもできたのは小学校の五年生までだったな。
それからは、誰とも一緒じゃなかった。
たった一人、この親友の美咲を除いては……。
中学校の話も美咲から聞いた。
私はずっと学校へは行っていないから。
当然高校にも……。
だから、今は初めて見る高校生活に何だかわくわくしてくる。
何が流行っているのだろう。
みんなで何をお喋りしているんだろう。
「へえーっ、思ってたよりいいとこじゃん」
思わず口をついて本音が出てしまう。
いつのまにかテレビ画面に擦り寄っていて、気づいたときには目の前に画面があった。
「あっ、そうか。高校見るの初めてだもんね」
美咲は相変わらず淡々と答える。
「うーん……。みんな楽しそう」
ホントに楽しそうにお喋りしてる。
だってほら、みんな笑ってるよ。
「えっ！？意味ないよ、こんなとこ」
美咲はどうしてこんな楽しそうな高校をさぼってばかりいるんだろう。
行ってみたいなあ。
美咲と一緒に行ってみたいな。
草川拓弥くんと一緒に通ってみたいな。
美咲が羨ましい……。
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作者名：MaRU | 作成日時：2018年3月20日 22時
