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謙と由紀はいつも思っていた。
Aの病気のおかげで家族の絆が強くなり、どんなときもお互いを信頼し続けられている自分たちほど幸せな家庭はないと。
確かに、Aが色素性乾皮症XPであると診断されたときは、驚き戸惑った。
そして、必死にその病気について調べた。
太陽に当たれない病気。
通常、人はDNAの中に修復酵素というものを持っているおかげで、日焼けをしても、DNAの中のその修復酵素が働いて自然に完治するようになっている。
だから、日焼けした肌が剥がれ落ちても、その下からまた新しい皮膚が生まれてくるのだ。
しかし、XPの患者は修復酵素がない。
もし太陽の光に当たったら、皮膚がんになる可能性は、一般の人の千倍から二千倍。
しかも、根本的な治療方法が見つかっていないということを知った二人は、抱き合って泣いた。
涙が涸れ尽きるまで泣いたあとは、もう二度と、Aの病気のことでは涙を流すまいと誓ったのだ。
「本当に大変ですねえ」
人はAの病気のことを知ると、必ず眉間に皺を寄せ、驚きと悲しみの表情を浮かべ同情してこう言う。
しかし、そう言われても、
「おかげで娘がずっと私たち親の側にいてくれまして、うちは本当に幸せです!」と、謙は嬉しそうに答えていた。
本当にそう思って嬉しそうに……。
Aには将来、別の家族として誰かと絆ができるのだろうか?
そんな日が来るのだろうか?
それでも……、Aは太陽の下では自由にできない。
謙は両方の握り拳で膝を強く叩き、それから額を叩いた。
そして、そのまま突っ伏して病院の長椅子から暫くの間微動だにしなかった。
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作者名:MaRU | 作成日時:2018年3月20日 22時