勇者パーティから追い出されたので移動式料理店はじめます。

それぞれの道 ページ48

「あ、れ......ユリ、ユリは！？」


「もうとっくに行ったぞ。ったく、しっかりしろよな」


「そうですよ、次会う時はせめて勇者の洸太を見せないといけないんですからね」



洸太が起き上がる頃、太陽は空の真ん中で堂々と照らしていた
清々しい空とは反対に洸太の目はパンパンに腫れている
美久亜はそんな洸太をしっかりとした人間に矯正することを胸に誓った______





「よし、依頼完了！」


「......成長してる匂い」


「かっ......嗅がないでください〜！汗臭いですから！」


「......鼻曲がりそう」


「......ショック受けて何も言えないみたいですよ」



目標を達成する為に紅の翼は日々依頼をこなしていた
女性パーティであること、そしてその腕の良さから既に街では話題になりつつある
紅の翼の名前がユリの耳に届く日はいつだろうか______





「ふふ、へへ......オクヤ、今頃ユリさんのお店はどこにいるんだろ」


「師匠、分かりましたから早く仕事に取り組んで下さい！」


「ええ〜、これ普通の仕事じゃん。ね......眠くなる」


「ああもうっ......！納期に間に合わないではないですか！どうしたら取り組んでくれるんですか！？何でも言うこと聞きますから！」


「......じゃあ、オクヤのご飯が......た、食べたいかも」



オクヤは普通の仕事には興味のない師匠を奮い立たせる為、思わず何でも言うことを聞くと言ってしまい口元を抑えた
しかし、その可愛らしい要求にオクヤはつい優しくなってしまう
ナツがそれに味を占めるとは知らずに______





「うんめー！姉ちゃんの飯、うめぇよ！王都で店を持ってみたらどうだ？」


「嬉しいけど、私はこのお店が好きなのよ。移動式料理店、カランコエが！」


「それに王都に店を出したら、私とユリさんでは手が足らなくなってしまいます」


「あら、それもそうね？」



客や店員の楽しげな声が飛び交う店、カランコエ
ユリが店に立つ姿はすっかり様になっていた
アイトも様々な料理が作れるようになり、カランコエは軌道に乗っていた______
______だが





「......」


「貴方に選択の余地はありません。大切な護衛騎士の命や貴方の家の土地、権力なんてものは私が吹かせた柔い風で吹き飛んでしまうのですから」


「......アイト」


「さあ、一緒に書きましょう」



メウラはペンを持つマスカの手を後ろから重ねて握り手紙に文字を書かせていく
迫る不穏にユリは気付かず、談笑を楽しんでいた





______第1章・完

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