勇者パーティから追い出されたので移動式料理店はじめます。

亀 ページ30

「移動式......料理店？」


「そうよ、そのお店を作って欲しいの」


「俺は棟梁じゃねぇんだ、他を当たれ」



この回答はもう何回目だろうか
職人には職人のプライドがあるようで、自分の作っている物以外は作りたくないという人が多い
アイトがいることで多少話は聞いてもらえている、本当に感謝しかない



「......じゃあ、この職人街で一番腕の良い職人を教えて」


「はぁ、あー......そうなると、カメさんか？」



男はそのカメさんとやらの場所を教えると追い払うように手を振った
私がムキーッと男に言い返そうとするのをアイトが制止する
......アイトがいなければあんな男けちょんけちょんよ！
私達がしばらく歩いていると、立派な店が見えた
職人が作業場を持つことは珍しくないが、こうして店を構えているのはあまり見たことがない
看板には"亀"と書いてある



「ここみたいですね」


「ええ、分かりやすくて助かったわ.....」



私達が店に入ると、店内にいる客は疎らだった
普通は店を経由して職人が作った物を使う為、この位の客数でもまあ良い方だろう
特注なんて、なかなかする機会がないだろうし
私達が店内を眺めていると、弟子と思われる若い男が話し掛けて来た



「いらっしゃいませ！今日はどうされたんですか？」


「実は、料理屋を開くの。色々特殊だから職人さんに依頼しようと思ってきたのよ」


「特殊......ですか。なるほど、奥の方へどうぞ」



意外とすんなり店主と話をさせてくれるようだった
そこは椅子が数個ポツンとあって、職人の店の割にはとても綺麗に整理されていた
そしてもうひとつ驚いたのは、この店を経営している人が瓶底メガネを掛けた女性だということだ



「あ、あの......今日はどんな依頼を？」


「......ちょっと特殊なの、移動式料理店を始めたくて」


「と、特殊ぅ！？移動式......料理店」



眼鏡のせいで表情がわからないが、驚いているのは確かなようだ
私は移動式料理店の主な内容を伝えた
するとその女性は震えながら手を机に打ち付けた
何！？ちょっと怖いわよ！



「さ、最高じゃないですか......私、こういうのを待ってたんですよ！私の作ったことのないものを作りたかったんですよおお！」


「そそ、そうなの？」


「師匠、落ち着いて下さい！お客様が怖がってますよ！」


「はっ......すみません、と......取り乱しました」



そういって眼鏡を指で上げながら女性は着席した
突然の乱れようにアイトも呆然としていた

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