第七十六話 強がりの煙草 ページ27
『此処が中也さんの家…?』
中原「嗚呼…」
「手前の家でもあるけどな」と云いたかったが、Aの混乱を招く為、俺は口を噤む。此処で下手に記憶の無いAを刺激して、何か起こったらたまったもんじゃない。
『広いね……あと、凄く綺麗』
中原「そうか?」
『うん……あっ、此処って寝室?見ても善い?』
「嗚呼」と答えれば、Aは寝室の扉を開けて中に入った。Aは入ってすぐ、部屋にある寝台に腰を下ろして、足をぶらつかせ、部屋の中を見渡した。
『寝室も広いね……ねぇ…中也さんって、本当に一人暮らし…?』
唐突なAの質問にドキッとしたが、平常心を保ちながら、「そうだ」と答える。何故そんな事を云い出したのかとAに問えば、「寝台があまりにも大きいから」と答えた。
Aの首領譲りの鋭い観察眼をこれ程まで憎いと感じたのは初めてだ。
Aを家に連れ帰ったのは、云う迄も無い。Aを護る為だ。今、俺がすべき事は敵の情報収集とAの安全を確保する事。記憶を無くしたAと四六時中行動を共にするのは、何とも気不味いものだが、今のAを一人にする訳にもいかなければ、他の奴に任せる訳にもいかねぇ……あっ、やべぇ。寝る時如何すりゃ善いんだ……さすがに普段通り一緒に寝る訳にはいかねぇよな……。
ふと気が付けば、Aはいつの間にか寝台に倒れ込んで眠っていた。Aの体を横抱きにし、気持ち良さそうに眠るAを起こさないように寝台に寝かせ、布団を被せてから俺は部屋を出る。
部屋を出てすぐ、俺はベランダへ出て煙草を咥え、火をつける。
中原「……何でよりによって……」
「Aなんだよ」と云う言葉は闇夜に消えていった。生涯掛けて愛すと決めた女に忘れられる程、辛いものは無い。
だが、もし俺がAの事を忘れ、Aが今の俺と同じ境遇に立ったとしたら……Aはこの状況に耐えられず、泣いてしまうのではないか……考えるだけでゾッとする。心底、俺で善かったと思う。
中原「……疾く思い出せ…馬鹿野郎」
久しぶりに味わう煙草の味は苦かった。
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くまこ - 本当に面白かったです!!中也さんカッコイイです!! (2016年11月12日 23時) (レス) id: 015a6a66a8 (このIDを非表示/違反報告)
セシル(プロフ) - 綾瀬雪さん» 何度も足を運んでいただき光栄です!!中也には溺愛していただきます(笑)今後ともご期待に添えるよう頑張りたいと思います! (2016年10月30日 0時) (レス) id: 87ed51745e (このIDを非表示/違反報告)
綾瀬雪 - お久しぶりです。続き読ませていただきました。夢主ちゃん本当に可愛いですね!ワガママだけど根がいい子なのがいいですよね。これからも中也さんに溺愛されてほしい! (2016年10月28日 15時) (レス) id: e4913cbce9 (このIDを非表示/違反報告)
セシル(プロフ) - 綾瀬雪さん» 本当ですか?良かったです(T_T)小説の話を組み込むのは不安だったのですが、そう言っていただける方がいて下さって本当に嬉しいです\ ♪♪ /これからもよろしくお願い致します (2016年10月15日 17時) (レス) id: 87ed51745e (このIDを非表示/違反報告)
綾瀬雪 - お返事ありがとうございます。本編より少し幼さの残る夢主ちゃんとってもかわいいです。ワガママ可愛い子大好きなので私の好みどストライクです! (2016年10月15日 14時) (レス) id: 3c086ba796 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セシル | 作成日時:2016年10月7日 23時