第六十八話 悲しみの足跡 ページ19
鷗外「君は行ってはならないよ、太宰君」
首領が引き留めるように声を掛けた。
鷗外「ここに居なさい。それとも、彼の許に行く合理的理由でもあるのかね?」
「云いたいことが二つあります、首領」と、太宰さんは振り返り、細めた目で首領を見た。
太宰「ひとつ。あなたは私を撃たない。部下に打たせることもしない」
鷗外「何故かね。君が撃たれることを望んでいるから?」
太宰「いいえ。利益がないからです」
直後、首領は微笑んだ。
鷗外「確かにそうだね。だが君も、私の制止を振り切って彼の許に行く利益などないだろう?」
太宰「それが二つ目です、首領。確かに利益はありません。私が行く理由は一つ。“友達だからですよ”。それでは失礼」
部下達が銃を構え、引き金に指を掛けた。太宰さんは全く気にすることなく、散歩でもするような足取りで扉へ向かった。そんな太宰さんの腕をワタシは咄嗟に掴み、太宰さんの足を止める。
太宰「Aちゃん…?」
『……行かないで……行っちゃ駄目……』
滅多にないワタシの行動に、太宰さんは目を丸くした。恐らくそれは、執務机に座る首領も同じだろう。
ワタシにとって、他人が何をしようが関係がない……と云うより興味がないのだ。だけど、この時は違った。此処で引き留めなければ太宰さんが居なくなってしまう気がしたのだ。
『太宰さん……居なくなっちゃヤダ……』
太宰「驚きだよ……君にそんな事を云われるなんて……中也に訊かせてあげたいくらいだ……だけどね、Aちゃん。例え可愛い君のお願いでも、今回ばかりは訊いてあげられないよ」
「すまない」と、ワタシにしか聞こえないような声で謝って、太宰さんは再び扉へと歩き出した。
部下達が、命令を求めるように首領を見た。しかし、首領は腕を組んで、太宰さんの背中を薄笑みで眺めたまま何も云わなかった。太宰さんは扉を抜けて廊下を歩いていき、やがて見えなくなった。
この日を境に、何かと頼りにしてきたその背中を眺めることはなくなった。
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くまこ - 本当に面白かったです!!中也さんカッコイイです!! (2016年11月12日 23時) (レス) id: 015a6a66a8 (このIDを非表示/違反報告)
セシル(プロフ) - 綾瀬雪さん» 何度も足を運んでいただき光栄です!!中也には溺愛していただきます(笑)今後ともご期待に添えるよう頑張りたいと思います! (2016年10月30日 0時) (レス) id: 87ed51745e (このIDを非表示/違反報告)
綾瀬雪 - お久しぶりです。続き読ませていただきました。夢主ちゃん本当に可愛いですね!ワガママだけど根がいい子なのがいいですよね。これからも中也さんに溺愛されてほしい! (2016年10月28日 15時) (レス) id: e4913cbce9 (このIDを非表示/違反報告)
セシル(プロフ) - 綾瀬雪さん» 本当ですか?良かったです(T_T)小説の話を組み込むのは不安だったのですが、そう言っていただける方がいて下さって本当に嬉しいです\ ♪♪ /これからもよろしくお願い致します (2016年10月15日 17時) (レス) id: 87ed51745e (このIDを非表示/違反報告)
綾瀬雪 - お返事ありがとうございます。本編より少し幼さの残る夢主ちゃんとってもかわいいです。ワガママ可愛い子大好きなので私の好みどストライクです! (2016年10月15日 14時) (レス) id: 3c086ba796 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セシル | 作成日時:2016年10月7日 23時