検索窓
今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:80,807 hit

第五十話 憎めないジェリービーンズ ページ1

ヨコハマの街を見下ろす丘の上、緑の茂った山道のただなかに、海の見える墓地があった。そこに、白く小さく名前の刻まれていない墓標がある。ワタシは、その墓標の前に立ち、彩りどりの花束を墓標の前に置いた。
アナタと言葉を交わしたのは、片手で数えられる程。
マフィアの最下級構成員とマフィアの首領の義娘……立場上、言葉を交わす事は先ず無い。だけど、アナタは歴代最年少幹部である太宰さんのお墨付きだった。だから、個人的に興味が湧いた。織田作之助とは、どんな人間なのか……実力はどれ程のものなのか──しかし、ワタシの期待を裏切るかのようにアナタは死んだ。そして、程なくして太宰さんはマフィアから姿を消した。
組合戦の最中、首領は「太宰君が今も私の右腕ならば、組合ごとき……」と、珍しくワタシの前で心の内を零した。

『その時…ワタシは思ったんだ、織田さん。アナタが生きていたら、太宰さんは今も闇の中で生きていたんじゃないかって──』

四年前───夜の闇が今よりもずっと青かった頃───。

『嗚呼…もう!有り得ない!中也、もっとスピード出してよ!!』

中原「五月蝿えな!迎えに来てやっただけでも有り難く思え!!だいたい、服が汚れたくらいで一々喚くなよ!」

『だって、これお気に入りだったんだよ!なのに、返り血が付くなんて……ほんと有り得ない!!』

深緑を基調とし、黒のレースがあしらわれたドレスは、首領に購ってもらった中で一番お気に入りのドレスだった。それが汚れてしまい、ワタシの機嫌は最高潮に悪かった。
この頃のワタシは、金持ちの令嬢を絵に描いたような女だった。気に入らない事があれば、直ぐに不貞腐れるし、気分が乗らなければ仕事もしない。
首領がワタシを甘やかすものだから、成長と共に我儘に拍車を掛け、ポートマフィアにある三つの掟はワタシの前では意味をなさなかった。

『今日は御父様が夜御飯(ディナー)に連れてってくれるって云うからお気に入りのドレスを着たの!なのに……今日の仕事が銃撃戦になるなんて訊いてない!!』

中原「判った判った。文句なら後で訊いてやるから、少し黙れ」

そう云って、中也はワタシの頭に手を置いた。中也に宥められ、ワタシは不貞腐れながら外の景色を眺めた。
この頃、もう既に恋仲であったワタシ達。「何故、こんな面倒なワタシと付き合ったのか」と、本人に直接質問を投げかければ、「なんか憎めなかった」と云う答えが返ってきたのは、最近の話。

第五十一話 アングリィ精神→



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (77 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
165人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

くまこ - 本当に面白かったです!!中也さんカッコイイです!! (2016年11月12日 23時) (レス) id: 015a6a66a8 (このIDを非表示/違反報告)
セシル(プロフ) - 綾瀬雪さん» 何度も足を運んでいただき光栄です!!中也には溺愛していただきます(笑)今後ともご期待に添えるよう頑張りたいと思います! (2016年10月30日 0時) (レス) id: 87ed51745e (このIDを非表示/違反報告)
綾瀬雪 - お久しぶりです。続き読ませていただきました。夢主ちゃん本当に可愛いですね!ワガママだけど根がいい子なのがいいですよね。これからも中也さんに溺愛されてほしい! (2016年10月28日 15時) (レス) id: e4913cbce9 (このIDを非表示/違反報告)
セシル(プロフ) - 綾瀬雪さん» 本当ですか?良かったです(T_T)小説の話を組み込むのは不安だったのですが、そう言っていただける方がいて下さって本当に嬉しいです\ ♪♪ /これからもよろしくお願い致します (2016年10月15日 17時) (レス) id: 87ed51745e (このIDを非表示/違反報告)
綾瀬雪 - お返事ありがとうございます。本編より少し幼さの残る夢主ちゃんとってもかわいいです。ワガママ可愛い子大好きなので私の好みどストライクです! (2016年10月15日 14時) (レス) id: 3c086ba796 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:セシル | 作成日時:2016年10月7日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。