塩辛い料理に砂糖を加えたような短編集（NEWS） (ページ2)

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「意気地無し」

はぁっとAは溜息をついた。

「もう、慶一郎とはサヨナラね」

涙なんて、一筋流さずに、Aは俺のもとを去った。風がさあっと吹いてAの長い髪が流れる。もっと、Aを愛したかった。『愛してる』ってもっと言いたかった。

「何で……？」

分かっていたよね？俺は不器用だってこと。初めての彼女だから、どうすればいいか分からなかったけど、優しく教えてくれたよね。あの優しさはどこへ消えてしまったの？

「愛って何？俺は何のためにAと付き合ったの？Aは何で……？何で……！」

溜まっていた悔しさがダムのように流れ出した。俺にもしも悪いところがあったら直すのに……。

初めてデートしたところは猫カフェで、初めてのプレゼントは109の雑貨屋で買った猫の置物。思い出がぐるぐると頭の中を駆け巡る。

スマホの写真のほとんどは2ショット。ここにも行ったなぁ、と懐かしく思う。Aのことを忘れたいけど、写真を捨てたくない。だから、忘れられない。

家に帰ってソファーに腰掛けると、身体が吸い込まれるような気分だった。こんなに疲れが溜まっているんだ、と実感が湧く。

「A……」

涙がほおをつたう。1粒、2粒……。たくさん流れる。もう会えないのか、とやっと理解する。

生まれ変わったら、しつこい程探し、そばにべったりとくっついているだろう。瞳の奥で悔しい思いと辛い気持ちが交差している。人生で１番辛い1日だった。