最強魔術師と凡人と #5 ページ5
「横に来なよ、デートなんだし」
「えっ……」
「俺と並ぶのは嫌？」
「嫌っていうか恐れ多いっていうか……」
「同じ人間なんだから気にしないで良いのに」
おずおずと彼の隣に移動する。
私が横に来て満足したのか、歩き始めた。
私の、片手をとって。
「待って待って」
「ん？」
「ん？ じゃないから！」
「ほらほら、時間は限られているよ」
恋人繋ぎでないにしろ、私の左手はソロモンの右手としっかり固定されていた。
不快というか、困惑している。
ノリが良いというかお茶目な部分はあるが、ナンパとか色恋沙汰とは無縁の男だ。
アスモデウスのような行動をとるソロモンにどう反応すべきか分からず、されるがままに隣で歩く。
ひんやりとした手の温度が気持ち良い。
ふと、自分の手汗が気になってしまう。
汗っかきというわけではないが、どうしたって緊張感は拭えない。
「ねえ、どこに行くの？」
「どこだと思う？」
「うーん、本屋とか？」
「それも良いね、オススメの魔術書があるから今度紹介するよ」
太陽を知らない魔界の空の下を、二人で進む。
魔界に人間など滅多にいないから周囲の悪魔は私たちが誰かなど知っている。
あのルシファーですら警戒する魔術師へ絡みに行く勇者はそういない。
雑談に花を咲かせているうちに、目的地へ到着したようでソロモンは足を止めた。
RADから十分経つかどうかといったところだ。
「マーケット？」
「そう、魔界で1番大きな市場。伊吹も何度が来たことあるだろ？」
「夕食の買い出しとかで何度かね」
行灯のような光が点々と空中に浮かんでおり、悪魔や魔女の往来で魔界とは思えない賑わいを見せている。
私にとっては真新しいもので溢れているこの場所は、留学してから見つけたお気に入りの一つであった。
ソロモンと手を繋いでいなければ好奇心に負けて迷子になっていただろう。
私の興味が向いた方向へ行き、彼の解説を聞きながら売り物を眺めていく。
食材以外にも怪しげな呪具だとか禁書だとか、人間界では無縁だった品物が当たり前のように陳列されていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：センカ | 作者ホームページ：livedoor.blogcms.jp/lite/blog/cenma524/
作成日時：2021年7月18日 20時
