孤高のアネモネ【HokutoMatsumura】 (ページ26)

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「会長、私はそろそろ。」

険しい顔をした会長は、俺の方に顔を上げると
それまでとは一変し柔らかい表情で「頼むよ」と言った。

会社を出て、わざわざ会長が送迎用にと用意した車を走らせる。
閑静な住宅街を抜けた先のひらけた場所に学校はあった。

時刻は午後3時半。

もう少しで緋織さんの授業が終わるはずだ。

俺はいつものようにポケットからスマホを出すと
緋織さんに"いつもの場所に"とメールを送る。

スマホをポケットに入れようとしたその時、
タイミングよくスマホが震えた。

「はい」

緋織『あ、もしもし…？』

恐らく初めてであろう、彼女からの電話。

何かあったかと思い、無意識に背筋が伸びる。

「どうかした？何かあった？」

緋織『あ、違うの…

あのね、車ってあたしの他に6人乗れるかな…？』

「え？あ、あぁ車？…一応8人大丈夫だけど」

緋織『…良かった…あの、翔さん、あのね、』

「…どこか遊びに行きたいの？」

緋織『そうじゃなくて…友達…が、お家に来たいって…』

言いづらそうな声で、ゆっくり話す緋織。

珍しく電話が来たかと思えば…と

こないだの体育祭が脳裏をよぎった。

「こないだのお友達かな？」

緋織『そうなの、勉強会をしようと思って…だめ？』

妹みたいに、半ば娘のように見てきた女の子の頼み。

ダメとは言えずに「良いですよ、待ってます」と
電話を切るも、あの6人組を思い出すと複雑な心境だ。

でも。

彼女の口から"友達"という言葉が出たのを思い出し
「あれからもう3年か…」とつい言葉が出た。

俺も30代。

まだおじさんとまでは言わないだろうが、
自分の半分ほどの年の子を見てると、やはり時の早さを感じる。

まずは彼女に友達ができた事に感謝すべき、かな。

それとも、そのお友達とやらに
牽制でもしといた方が良いのだろうか。

割と真面目にそんな事を考えてしまう自分に笑いが出る。

車から出て、車のフロントに寄りかかりながら
彼女を待っていると、彼女の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

この学校を選んで良かったかもしれない。

そう思うとまた自然と笑みがこぼれた。