【訪問者】 ページ37
この世に神様がいるのだとしたら、ちょっと意地悪じゃないかと後に思う。
チョコを作った方も、貰った方も、向き合ったまま二人してだんまりしていた。
緊張と興奮が混ざり合った空間。彼はこの瞬間をずっと待ち侘びていたのだ。
ウォンカがわずかに震える指で、見えないチョコレートをアリスの手に乗せようとした。
その時ーーー
ドンドンドンーーーレストランの扉が大きな音を立てる。
肩を大きく跳ねたアリスの手は、条件反射でサッと引っ込められてしまう。
そしてウォンカの指先から離れてしまったチョコレートが……転がっていく感覚だけを残して……姿を消した。
「しまった！」
「え、どうしよう！」
二人はほぼ同時にしゃがみ込むと、ぺたぺたと床を撫で始める。
香りも無く、姿も無い小さなチョコレートを見つけるのは至難の業だった。
泣きそうな顔をして探し回るアリスに、ウォンカの胸が疼く。
しかしいくら探しても、手に何か当たる感覚は訪れない。
そしてどういう訳か、不運は二人へ新たな不運を呼び込んだ。
「アリス？いるかい？」
入口から聞こえてきたのは、ウォンカにもアリスにも由縁ある人物の声。
―――フィクルグルーバーだ。
二人がノックの主に気が付いた瞬間、ウォンカの頭に何かが覆いかぶさる。
視界が薄暗くなり何事かと思ったが、柔らかで暖かな感触がそれを毛布だと教えてくれた。
床を這っていたアリスが立ち上がったのか、彼女の声が上から聞こえてくる。
無理して捻り出してるような明るい声は、初めて聞く声色だった。
「フィリックスさん……！来てくださったんですね！」
「いつも突然すまないね。少し立ち寄ってみただけなんだが……」
フィクルグルーバーの語気が少し不穏な気配を醸し出す。
留まるべきか、早々に立ち去るべきか。
毛布の中のウォンカが悩んでいると、誰かが優しく立たせてくれた。
直後、フィクルグルーバーの怪訝な声が聞こえてくる。
「……それは？」
「この方は……よ、酔って眠ってしまってたんです。
ほら、起きてくださいねー。もう閉店なんですよー」
「外は寒かったでしょうフィクルグルーバーさん。
さぁ、ホットワインでもいかがですかな？」
「……頂きましょう」
見えないはずなのに、チクチクした視線が刺さっている気がする。
すぐ横からアリスの声がして、彼女の手に誘導され裏口までなんとか連れてきてもらった。
九死に一生を得るとはこの事か。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 46人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ソフナー(プロフ) - かんなさん» かんなさん、いつもコメントありがとうございます！いえいえいえ、こんな素人文章にお金使わないでください……！寧ろ好きと言ってくださるかんなさんにお金払います(？)いつも応援ありがとうございます🥰 (2月5日 6時) (
レス) id: deb951e27a (このIDを非表示/違反報告)
かんな - 何かもう本当に読み進める度にこの作品が好きになります🥲💖もうお金払ってでも読みたいレベルです‼️ (2月4日 22時) (レス) @page39 id: 64afab6d44 (このIDを非表示/違反報告)
ソフナー(プロフ) - かんなさん» かんなさん、いつもありがとうございます！皆さんが読んでくださる事が私の励みにもなります！🙏これからも日々の楽しみの一部になれるように、頑張って更新続けていきますのでよろしくお願いします💖 (1月28日 8時) (レス) id: deb951e27a (このIDを非表示/違反報告)
かんな - やっぱりすごく読んでいて続きが楽しみになる作品ですね🥲私の毎日の楽しみになってます！！ (1月28日 8時) (レス) id: 64afab6d44 (このIDを非表示/違反報告)
ソフナー(プロフ) - kinokokanaさん» kinokokanaさんコメントありがとうございます！楽しんで下さる方がいらっしゃるのが一番励みになります😭極力、一日か二日に一度更新を目指しているので、頑張ります！💪これからもよろしくお願いします💖 (1月17日 12時) (レス) @page15 id: deb951e27a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ソフナー | 作成日時：2024年1月7日 21時
