エピローグ:超能力者な死神のこれから ページ36
あれから、どれくらいの年月がたったのだろう。幾つもの世界線を渡り歩くうちに、その辺の感覚はすっかり狂っちまった。だって、世界線の中には一年が二百日くらいのところとか、一週間が六日のところとかザラにあるんだぜ? そりゃ混乱もするだろ。
……だからあの日のことは、つい昨日の出来事のようにも、十年以上昔の出来事のようにも思える。でも、俺はそれでいいと思ってる。
俺達の未来を決めた決戦が、零夜の魂を取り込んだ瞬間が、零夜の最後の姿が、どれだけ遠い過去のことになっても、俺達にとってはすぐ隣にある。それって幸せなことだろ?
「あ、13見て! あんなところにクレープの屋台!」
Aが指さした先を見る。まず目に入るのは、蛍光ブルーと表現するのが手っ取り早いような、安っぽい、青すぎの空──どういうわけか、この世界線の空は俺達が元いたところと若干異なる色をしている──。太陽と反対方向であっても眩しいと感じる青空から目線を下ろしていけば、地面との境界に、屋台がぽつん、と確かに立っていた。
……この距離で、よくクレープ屋だって分かったな。食い意地の張った奴だ。
「ねね、あそこまで競走しようよ! 負けた方がクレープ奢るってことでさ!」
「は?」
「ってことで、よーいドン!」
「待てやコラ」
「待たないよーだ」
べ、と舌を出して笑うAを慌てて追いかける。奢りなんて冗談じゃない、俺は今金欠なんだ。
「やば、13早い」
「覚悟しろよ、ぜってえ奢らせてやる」
「むむ、負けないから……!」
俺のスピードに焦りを感じたらしいAが、追いつかれまいと速度を上げる。
Aが加速する瞬間。そのほんの一瞬、俺はAの手を引く零夜の姿を見た。俺の方を振り返り、唇に指を当てて挑発的に笑う零夜の姿を。
「……上等じゃねぇか」
俺はきっと、これから何度だってアイツと再会を果たす。
Aと世界線を移動する時。アイツに譲ったせいで片方だけになった二丁拳銃に触れる時。アイツの救った一つの命が笑う時。きっと、アイツは俺の隣にいる。勝負の続きをしようと笑ってる。
「あ、ちょっと13、大人気ないよ! 少しくらい手加減してよー!」
……そんな気がしてる。
Fin.
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作者名:パト | 作成日時:2022年9月14日 18時