回想:少女の絶望 ページ18
［大切な話がある。地下一階の倉庫に来てほしい］
そんな手紙がAに届けられた一年前のその日、彼女は指定された倉庫に来ていた。シェアハウスの奥にあるその場所は暗く、エアコンもないのに妙に涼しかった。
「……ねえ、バタフライ・エフェクトって知ってる？」
ふいに、暗闇の中から声がした。その声の主は、Aに手紙を送ったのと同じ人物──零夜であった。
「一羽の蝶の羽ばたきが、竜巻を引き起こす……ってやつ？」
「そう、それだ。ほんのちょっとしたことが、予期せぬ事態を引き起こすことの
零夜の唐突な問いかけに、Aは首を傾げつつも答える。なんで急にそんなこと、と言おうとするAを手で制し、零夜は語り出す。
「……僅かな歪みはやがて広がり、大きな亀裂となって世界全体を覆い尽くす。たった一つでもイレギュラーが入り込めば、この世界はどうなるか分からない。だからこそ……」
零夜はそこで一度言葉を切った。翡翠色の瞳でまっすぐにAを見据え、右の手のひらを彼女に向ける。バチッと音を立てて、零夜の右手から電撃が走る。
「……え、れ、零夜？ 何して……」
「…………不確定要素は、排除しなくてはならない」
直後、Aの体から力が抜ける。すとん、とその場に座り込んでしまったAに、零夜は一歩ずつゆっくりと近づいていく。
「……ねえ、れ、いや、さっきから、何、言ってるの……？ イレギュラー？ 不確定要素？ わざわざ呼び出して、なんでそんな変なこと言うの？ 分かんないよ……！ 私にも分かるように説明してよ！」
「……君はここにいてはいけないんだ」
「…………は」
まるで子供に言い聞かせるような穏やかな口調で、零夜は言った。
「……ただ有るだけで、世界にとって害となる存在。本来は生まれるはずのなかった存在。君は、……『A』という人間は、有り体に言えばバグのような存在なんだ」
「バ、グ……」
零夜の言葉を、Aは口の中で
「ねえ零夜、何言ってるの……？」
「心当たりが無いとは言わせない」
「……知らない！ 私は、私は！」
バグなんかじゃない、と叫ぼうとしたAは、零夜が次に口にした言葉で絶望のどん底に突き落とされることになる。
「なら、君は…………」
──#コンパスの世界に来る前、君はどんな生活を送っていたんだい？
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作者名：パト | 作成日時：2022年9月14日 18時
