昔話 ページ4
家族のこと、事故のこと、そして‘完璧’を目指す理由。
吹雪は全てを打ち明けた。
「だから僕は、完璧にならなくちゃ」
そう締め括った吹雪の隣には、目を伏せて考え込むAがいる。長い沈黙がその場を支配した。
「……私ね、FBIでは1つ年上の同僚2人とチーム組んでるんだ」
ポツとそう零したA。脈絡のない話に少し戸惑い、彼女の横顔を見た。
「1人は物凄く頭が良い。数人がかりで対処するような難事件を、1人ですぐ解決させるんだ。それに加えてメカニックの天才でね。これもその同僚が作ったんだよ」
首にかけたヘッドホンをちょっと持ち上げる。すぐに戻すと、話を続けた。
「もう1人は馬鹿だけど格闘の才能がある奴。テロ組織を1人で相手して制圧させたこともある。馬鹿だけど警察としての勘は鋭いから、何だかんだ頼りになるんだよね」
2回も馬鹿と言う割に、Aの口角は緩く上がっている。
「そんな感じでさ、出会った頃から2人共実力を存分に発揮してたわけ。だから私も思ったよ。2人はFBIの頭脳と戦力。……2人さえいれば、完璧だってね」
Aがこちらを向いて、吹雪は息を呑む。寂寥感が紫色に光っていた。
「私はほぼ執念でFBIに飛び込んだからさ。勢いだけで何の才能も無かった。……仕事をする度に、私なんていらないんじゃないかって、何度も考えたよ」
淡い声が、息と共に夕闇に溶けていく。
「でもね、そうやって悩んでる時に上司が言ったの。2人のことをもっと観察してごらんって……それで言われた通りにしてみたら、案外早く気づいた」
そう言葉を切った瞬間、紫色からスンと光が消える。
「2人共別々の方面で才能がある分、性質も両極端だったの。一方は合理的だけど心の有無を疑うような判断を下すし、もう一方は考えなしに現場に突っ込んだりするし。それで方向性が違う上に幼稚だから喧嘩もするし。そのせいで周りの大人はもうてんやわんや」
「え、えぇ……方向性ってそんなバンドみたいな……」
「それだけじゃないよ。2人共狙撃が下っ手くそでさぁ。訓練中もターゲットを撃てって言ってるのに、外すどころか隣の人の鼻先スレスレを撃ってんの。こいつらに銃火器持たせちゃダメだってその時に悟った」
唐突に流暢になった愚痴の内容に、吹雪は引いた。あまりに物騒すぎる。自分の弟の方がまだ可愛い暴れ方をしていた。そんな吹雪の素直な反応を見たAは、やがて声を上げて笑った。
続く
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作者名：カルナ | 作成日時：2019年3月13日 1時
