金爆短編置き場

さよなら、 ページ17

大好きでした。
貴方の事が、何よりも愛しかった。
愛されたかった。
私を、選んで欲しかった。
だけどもう、

｢ご結婚、おめでとうございます。｣
そう事務的な口調で言う私は、きっとうまく笑えている。
彼に笑顔を見せるのはなれているから。
どんなにしんどかろうと、彼にだけは笑っていたかったから。
｢ありがとうございます。｣
照れたような表情でぺこ、と頭を下げる彼は、本当に幸せそうで、これでいい、と心から思えた。

視界の隅に猫背が映る。
その背中には気付かないふりをして、部屋を出た。

いいの。だってさ、みんなが幸せになれる道なんて何処にもないでしょう？
綺麗事を嫌うあなたなら解っているはず。
だからもういいの。全部おしまい。
彼への片想いも、黒い嫉妬も、全部捨てる。
だからあなたの優しさも、痛いだけ。

｢ねえ、｣
低い声で呼び止められる。
｢くるしくないの？｣
何それ。
苦しいに決まってるでしょ。
私の気持ちはきっとあなたにしか解らないと思っていたのに。
振り返った私と目が合い、あなたは笑った。
｢よかった。
　ちゃんと泣いてるね。｣
は?
意味がわからず数回瞬くと、確かに頬を何かが流れた。
｢君は、全部捨てられるって顔して全部抱え込むから。きっと、その…何だ、今回のことも誰にも気付かれないように出来るしするんだろうなって思ったら心配になった。｣
だから、よかった、と。
堪えきれなくてはみ出た部分を押し込もうとせずに溢していたから、よかった。と。

そうだった。
あなたは誰より私を見ていた。
全て綺麗に隠しきれていたつもりだったけれど、あなたには全て悟られていた。





｢愛したのが、あなただったなら｣
あなたにとっては鋭利な本音は、ただ微笑みとして。

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