金爆短編置き場

卒業してきました ページ14

式が終わった。
案の定あいつは来なかった。

体育館を出て、ミーハーな女子共にねだられる前に第2ボタンを引きちぎる。



図書室。きっとあいつはここに居る。
いつもの、本棚の影、窓の下。
そこにしゃがみこみ丸まって本を読むあいつ。
始めてみたときはびびったなあなんて思い出す。

｢きゃん｣
今日は、その膝に本はのっていなかった。
ここにいればあえるとおもった、と、短い髪を揺らして笑う。
｢卒業式出なかったのな｣
｢当たり前じゃんなんの恩もないし最後に顔をみたいやつなんてきゃんくらいしかいない｣
その言葉に若干の手応えをかんじ、右手に握ったままだった第2ボタンを差し出す。
｢やる｣
きょとん。
目を丸くするA。

｢いらない｣
｢ネクタイがいい｣
は？
困惑する俺を尻目に、Aは慣れた手つきで俺のネクタイをほどく。

しゅるり。

｢私の、も、あげるよ｣
ぱさり、差し出したままの右手にリボンが乗せられた。

｢好きだ、わりと。｣
Aはそう言ってけらけらと笑い、近づいてきた。
目の前が暗くなる。
口の端に柔らかいものが触れた。

｢ゆたか、意外と好きだ｣
｢さっきからなんだよわりととか意外ととか｣
素直に言えよ。
引き寄せて、もう一度唇を重ねた。
桜の匂いがした。

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