赤side ページ10
事態を飲み込むのに時間が掛かる俺に対して、戸惑いながらも、すぐに車を出すと言ってくれた目黒。そんな俺らに阿部は何も言わず、ただ着いてきた。
車内には重苦しい雰囲気。目黒は運転に集中してるし、阿部は唇を噛んだまま。正直、居心地はとても悪い、だけど、この雰囲気を変えるような気の利く言葉を言える自信もない…ここに佐久間が居たら、無理矢理にでも明るくしてくれるのに…
窓に映る情けない自分の顔から目を背けて、続報がないかとスマホをいじると
赤「なにこれ...」
メッセージアプリのニュース欄に、よく知る名前が目立つように載せられていた。
それでもなお、信じられない気持ちでネットを開くと目に飛び込んでくる、とんでもない言葉の羅列。
《佐久間 痴漢》
《佐久間 警察》
《さっくん 逮捕》
信じられないと思いながらも、1番上にあった元ネタと思われる投稿を開けば、ご丁寧にも動画が載せられていて思わずタップしてしまう…
《この人痴漢です！》
《おい、逃げんな！！》
さっきダンスの練習のためにボリュームマックスにしていたスマホから流れる物々しい音声に、隣に座る阿部の肩がピクリと動いたのが目の端に映った。
動画は30秒ほどの長さ。もう既に何万回と再生され、ものすごい勢いで拡散されていた。
動画の冒頭は手ブレでよくわからないけれど、男性が女性に手を掴まれて周りを囲まれている様子が映っていた。
本当にこの人は佐久間なのだろうか…顔は伏せがちでよく見えない。けれど、掴まれた細い右手に光るピンキーリングは佐久間がつけていたものによく似ていた。
動画の終わりは、出口まで男性数人に引きづられた男性が、開いた扉の先にいた駅員に引き渡される場面だった。
黒「佐久間くんに限ってありえないよ」
動揺する俺や阿部と対照的に
まっすぐ前を向いて言いきる目黒。
俺も、そう思いたい...そう、信じていたい...
黒「まずはさ、佐久間くんの話を聞こ。それから考えようよ。」
いつも力強く背中を押してくれる目黒の言葉が
今は何故か俺の不安を掻き立てた。
万が一、があったら、俺は、俺らはどうするんだろうと…
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作者名：舞雪 | 作成日時：2023年5月5日 0時
