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約束した時間に合わせて会社近くに赴く。土日など関係無く仕事に追われているのだろう、跡取りとは肩書きだけではない。本社が移動してから足を運んだ事は無かったので目の前に現れた立派なビルに思わず驚く。同時に私が人の上に立つ人間の妻になることを考え、少し身震いした。
ビルの方向から歩いて来る人たちは疎らだ。その中に見覚えのあるスーツを見つけるのは簡単だった。
『ありがとうございます。時間作ってもらって』
「…いや、構わない」
私が立ち上がり歩き始めると、私の歩幅に合わせて彼も歩き始めた。会食の時に庭園を散歩した時の緊張感とはまた違うものがあった。近くを流れる川の音が聞こえるくらいまで歩いて、足を止めた。彼も足を止めて、私は肺に全て行き渡る様に息を吸った。
『どうしても、結婚する前にはっきりさせておきたくて』
「……」
『教えて欲しいんです、貴方が何を考えてるのか』
『私に気持ちが無いことは分かってます。だから、このまま結婚することが貴方にとって良いことだと思えません』
私と同じ様に彼も唾を飲み込んだ様に見えた。少し下を向いている彼の顔を覗き込む勇気など今の私には無い。でも、素直な言葉をぶつける事なら出来る気がした。それをやらなければいけない気がしたのだ。
『……私のこと、嫌いですか？』
言い終わるよりも前に、少しの苦しさと温もりを感じて、私は自分が抱き締められている事をすぐには理解出来なかった。次に理解したのは肩に落ちて来た雫だった。それが何を意味しているのか、分かるはずもなかった。そして私にしか聞こえないくらいの声でごめんとただひたすら呟くのだった。
それじゃ何も分からないじゃないか、なんて思いながらも、次第に視界の隅がぼやけて来た。どうやら強くなったというのは勘違いだったらしい。何も変わらない自分に涙しているみたいで、彼の涙は私と違うものなのは明らかだった。
腕から解放されると彼は私から一度顔を背けたがすぐに戻って私の涙を指で掬いながら口を開いた。
「何一つ文句言わないAに甘えてた、仕事で余裕がないなんて理由にしていい訳が無いのに」
「……許さなくていいから、嫌いかどうかなんて聞かないで」
どうして彼がそんなに切なそうに私を見つめるのか聞けずにただ黙って聞いているしかなかったのだ。ただそれだけしか、出来なかった。
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：絹(プロフ) - みなさん» ありがとうございます〜(/ _ ; ) 期待に応えられるようにがんばります◯ (2019年8月4日 0時) (
レス) id: c52fa03a53 (このIDを非表示/違反報告)
みな(プロフ) - 何回読み直しても飽きないです^_^ (2019年8月2日 1時) (レス) id: fa95af4103 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新待ってました！ (2019年6月22日 16時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新していただきありがとうございます！ずっと待ってました！ (2019年3月7日 11時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
さやめめ(プロフ) - 私もとてもショックを受けましたが、またこうして更新をしていただき有難いです。とても楽しみにしていました、これからも応援しています。 (2018年12月1日 15時) (レス) id: 0eff97111c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：絹
| 作成日時：2018年4月2日 19時
