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「初恋だったんだ」
『……私の独り善がりだけどね』
綺麗に言えば初恋。そうして置けば傷付かないだろうと勝手に脳が働いたのかもしれない。だけれど紛れも無くそこに愛があったと、それは間違いでは無かったと私は思うのだ。
『…京本くんも昔からの知り合いなんだよね』
「そう。俺と北斗のヴァイオリンの先生が一緒で、学校が一緒だったから家族ぐるみでの付き合いだよ」
私が北斗との話をしたからか、京本くんは余り語ろうとしなかった自分のことを話してくれたのだと思う。汗をかいたグラスを見つめながら彼は再び口を開いた。
「俺も独り善がりなのかも」
『……』
「劣等感、ってやつ。子供の時のね」
劣等感、そう吐き出された言葉は余りに寂しいものだった。彼とはかけ離れた言葉に聞こえるそれがどうして彼の中から生まれたのか、分からなかった。
「高校生の時に選考会も兼ねた発表会があってさ。
そこで俺は本番で手に上手く力が入らなくなって」
京本くんは右手に視線を落として、庇う様に左を重ねた。病院で会った時のことが脳裏によぎった。
「俺は天才で、北斗は秀才だって大人たちに言われて、勝手に対抗心持って
子供って単純だよね、今ならそんな感情捨てられるのに」
「天才は才能を失ったら秀才には勝てないってこと、無知な俺に言ってやりたいよ」
敢えて自分を傷付けるように語っていく。淡々と、無機質な感じで。一つ一つ、噛み潰す様に紡ぐ様は彼らしさを感じた。
「まあ俺はヴァイオリン以外さっぱりだったから、成績優秀な北斗に叶うはずなかったんだけどね」
バツが悪そうに笑ってカフェオレの残りを飲み干すと、グラスから雫が滴り落ちた。長時間話したことを示すそれがコースターの色も変えていた。
『……手の具合は？』
「すっかり元通り。夢でも見てたみたいに」
彼は私に見える様に手を上げて開いて閉じてを繰り返した。少し重くなった空気を一変させる様に私に向かって笑いかけた。それは余りに不器用で、不格好だ。
『無理して笑わなくていいよ」
「…そっくりそのままお返しするよ」
それは私も同じだった。お互いが気付いていて、傷を舐め合うことはしないけれどカラダの中の淀みを吐き出す様に囁き合う相手。
もう少し早く出会っていたら何か変わっていたのかもしれないなんて柄にも無く期待する様なことを思いながら、その日は別れた。
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：絹(プロフ) - みなさん» ありがとうございます〜(/ _ ; ) 期待に応えられるようにがんばります◯ (2019年8月4日 0時) (
レス) id: c52fa03a53 (このIDを非表示/違反報告)
みな(プロフ) - 何回読み直しても飽きないです^_^ (2019年8月2日 1時) (レス) id: fa95af4103 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新待ってました！ (2019年6月22日 16時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新していただきありがとうございます！ずっと待ってました！ (2019年3月7日 11時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
さやめめ(プロフ) - 私もとてもショックを受けましたが、またこうして更新をしていただき有難いです。とても楽しみにしていました、これからも応援しています。 (2018年12月1日 15時) (レス) id: 0eff97111c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：絹
| 作成日時：2018年4月2日 19時
