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樹を部屋に入れたのは初めてだった。ここは松村の家に知られているから注意しなければならなかった。
私の家で会わない、これは二人で約束したことの一つだった。それでも彼は来たのだ。
「…早く着替えたら？風邪引きたいの？」
少し口調が荒いのは勿論私に対しての苛立ちでしかない。でも、はっきりさせたいことがある。濡れた体など、どうでもいい。
濡れたTシャツを脱いで上半身をタオルで拭く彼の背中に立てた爪の感覚を思い出した。
少し短くなった襟足も、長く伸びた首も。
夜な夜な数えたピアスホールの数も。
全てが全て、私の記憶と繋がっていた。私の幸せな記憶へと、繋がっていたのだ。
それに私は目を瞑って、問いかけた。
『……何で、来たの』
彼は体を拭いていた手を止め、こちらに視線を戻した。瞳は真っ直ぐだと思う。
「それ聞きたいの？言わせたいの？」
さっきよりも息を荒げて紡ぐ。タオルは床に落ち、こちらへとどんどん距離を詰めてくる。
怒らせたかった訳じゃない。中途半端な良心で、離れようとした。会ってしまったら決心が揺らぐから。一目見て仕舞えばそんなこと容易に想像出来たのだから。
『……』
「俺だけ？こんないっぱいいっぱいなの。必死なの。
平気だったわけ？何とも無かったわけ？」
捲し立てる様にどんどん言葉を放つ彼の顔の血管が動くのが分かる。感情が動いているのが分かる。
こんなにも散らばって、繋がって、苦しい。
「言えよ、A」
そんな今にもまた雨が降り出しそうな、そんな切ない顔で、顔を歪ませて私を見つめないで。
次に伝える言葉は決まっていた。
『……別れよう、樹』
眉間の皺を寄せるのが見えた。見たことがない綺麗な雫が左目から零れ落ちるのも見えた。
嫌だな、そんなとこまで愛おしいだなんて感情を思い出すのは。
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：絹(プロフ) - みなさん» ありがとうございます〜(/ _ ; ) 期待に応えられるようにがんばります◯ (2019年8月4日 0時) (
レス) id: c52fa03a53 (このIDを非表示/違反報告)
みな(プロフ) - 何回読み直しても飽きないです^_^ (2019年8月2日 1時) (レス) id: fa95af4103 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新待ってました！ (2019年6月22日 16時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新していただきありがとうございます！ずっと待ってました！ (2019年3月7日 11時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
さやめめ(プロフ) - 私もとてもショックを受けましたが、またこうして更新をしていただき有難いです。とても楽しみにしていました、これからも応援しています。 (2018年12月1日 15時) (レス) id: 0eff97111c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：絹
| 作成日時：2018年4月2日 19時
