双離 (ページ18)

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次の日から、あの場所に行くことを避けるようになった。勿論、北斗に会うことはないに等しい。たまに廊下ですれ違うだけで、視線も合わない。

一瞬の淋しさで揺れた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。

隣で笑う怜央がいるだけでありがたいと思わなくちゃ。私には怜央だけでいいんだ。そう思った。

「ねぇ、1組の松村の噂知ってる？」

そんな中突然聞こえてきた彼の名前に思わず聞き耳を立てる。

「松村？誰それ」

「イケメンで有名じゃん！」

「ふーん、で？」

「留年してるから1個上らしいんだけどさ、」

「どうも休学してたから留年したらしいの」

「休学？なんで？」

「先輩が言うにはあの放火事件の犯人なんじゃないかって」

「え？まじで？」

「あの後松村が学校来なくなったんだって」

「そんなん自分が犯人ですって言ってるようなもんじゃん(笑)」

去年の夏頃、うちの学校の体育館倉庫で火事があった。体育館に燃え移る前に火は消し止められたけれど、隣接している部室は全焼して全国ニュースにもなった。未だに犯人は捕まっていない。けれど、学校に来ない時期が被っただけで犯人だなんて決め付けるのはおかしい。

その噂は学年中に広まっているようで北斗が廊下を通るたびに生徒がコソコソと話している光景があった。

あんな優しい人が放火なんかするわけないじゃない。

私は久しぶりにいつもの場所へと足を進めた。北斗が傷付いていないか、ひとりで苦しんでいないか、不安で、

階段を一気に上ると、艶やかな黒髪が見えた、

「…久しぶり」

「どうしたの、そんなに急いで」

『…ううん、何でもない』

いつもと変わらない姿に何だか安心してしまって。急いでここまで来た息の疲れと共に脱力して踊り場に座り込んだ。

「本当にどうしたの？」

「淋しくなった？また」

「ふたりぼっちだって言ったでしょ」

優しい温もりを感じて、抱き締める腕はキツくて、彼の瞳は見えない。その真っ黒な瞳に何を浮かばせているのか、いつまでも分からないんじゃないかと錯覚するくらい。

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