少女の眼差し ページ2
.
翌、横須賀基地に戻り近海の報告も終えると上官に相変わらず固い奴だと散々に言われ笑われた。自身の頭が固いのは誰より分かっているが、そんなに面白いことか。何なら上層の上層はもっと頭が固いではないか。私だけ棚に上げてからかわれるのは癪に障る。
上官の司令室を後にし靴音を鳴らしながら玄関に戻ると私を待っていたのか米内の姿があった。粛然と軍部の人間が行き交う中、ぼうっとそこに突っ立っていたのだ。
畏まったように咳払いを落とした米内はつかつかと此方にやって来ると嫌な笑みを浮かべたままぐいぐいと私の腕を引っ張り端のソファーに並んで腰掛けるように言った。私を引っ張る逆の手に持たれた薄い手帳のようなものには見覚えがあった。またか…軽く溜息を吐いたのが聞こえたのか米内は山茂、と改まったように話し出す。
「会うだけ会ってはもらえないか」
「…私は結婚する気は」
「お前がする気がなくとも、三十にもなって所帯の無いのはお前ぐらいだ。今後その手の話は増えるぞ」
「はぁ……置いていくかもしれん妻を持ってどうするんや…」
米内が丁寧に開いた薄皮の下には西洋風の椅子に腰掛け此方に視線を向ける着物の少女の写真が収められていた。狭い肩幅に線の細い輪郭、自分の母親とはまた違うモダンな髪型の少女は見た感じ十六、七といったところか。
こんな、脆そうなお嬢さんを相手しろと言うのか。艶やかな花が舞う着物に負けない程の可憐な少女であるが所詮少女は少女である。絶対に無理だ。仮に私が干支一周若返ったとて無理だ。幼い頃からの女性との関わりなんぞままごとのようなもので、海軍学校に入ってからは真面に向き合ったことも母や祖母程度のものだ。親戚でも絡まれるのは得意でないというのに。
もう一度写真に視線を落とす。まだ幼さの残る顔は薄い笑みを湛えてはいるもののどこか不安げである。それもその筈で、素性も分からぬ干支一周も歳上の男に嫁ぐかもしれないのだ。…しかも生涯を共になんて建前はあれどこっちは軍人で、いつ命を落とすやも分からないのだ。
「…む、むりだ」
「週末に
「何を、どう努力しろと！」
私の悲痛な訴えは聞き入れられず、半ば無理矢理にその見合い写真を持たされお前が幸せになれる事を祈っている、と米内はその場を立ち去ってしまった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 76人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
