魔法と思春期 skab (ページ9)

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歓迎されてない事なんか分かりきっている。
だけどこの程度のことで怖気付いてる訳にはいかない。

「もちろん覚えてますよ。俺は自己紹介しましたけど、あいにく、お名前頂けてなかったので」
にっこりと、できる限り意識して口角を上げると、取り巻きの男たちと、近くで固唾を飲んで見守って来た生徒がざわついた。
でもそんなの関係ない。
俺は何もしてないし、何も悪くない。
食堂での一件だって、こっちは最低限の礼儀を払った。
それを無視したのはこの男を筆頭に、この寮の連中の方だ。

俺からの嫌味がきちんと伝わったようで、男は不愉快そうに顔を歪めると舌打ちを返して来た。
どうやら挑発に簡単に乗ってくるタイプのようだ。

「……佐久間」
「佐久間さん」
ぶすっとした低い声で男──佐久間さんが名前を口にする。

「阿部亮平です」
「さっきも聞いた」
そう言いながら、佐久間さんがさらに近づいて来た。
彼のローブが俺の頬を僅かに掠め、反射的に体を引く。

「そこ、俺の席だから早くどけって」
「ああ、はい」

言われて今度は素直に立ち上がる。
立った状態で佐久間さんと対峙すると、彼は思っていたよりも身長が低い。
入れ替わるように佐久間さんが俺の座っていた椅子にどかりと座ると、ふてぶてしく足を組む。
俺よりも小さいのに、その仕草が妙に様になっているから不思議である。

俺が大人しく退いたことで、佐久間さんを取り囲んでいた男たちが湧いた。
はたから見た俺は、佐久間さんとの椅子取りゲームに負けた風に映っているらしい。
別に、悔しくもなんともないけど。
椅子なら談話室に腐るほどあるというのに、この席にこだわる理由がわからない。
勝ち負けよりも悔しさよりも、精神年齢の低すぎる生徒の多さに、俺はすっかり呆れてしまっていた。

まあいいや、もう自分の部屋に戻って本を読もう。

なんて無理やり心の中で納得させて、俺が座っていた席に座り、取り巻きの男たちの話に耳を傾けている佐久間さんを見下ろすように一瞥した。

変な人たち。
それが今のところの感想。

「なあ」
今度こそ部屋に戻ろうと踵を返した俺の背中に声が掛かる。

「さっさと辞めちまえよ、マグルめ」

頭から水をかけられたような、もしくは、石を投げつけられたような。
まだこの環境に馴染めていない俺にだって分かるくらい悪意ある、乱暴な言葉だった。

鳩尾のあたりにぐっと力が入る。
言い返すことも、振り返ることもなく、自分の部屋に向かった。