魔法と思春期 skab (ページ50)

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「皆さん落ち着いて。…佐久間さん、立てますか」
「うぅ…」

数人の生徒が駆け寄って佐久間を介抱するが反応は鈍い。
見かねた先生が近寄ると、それを制するように片手を上げた佐久間が苦しそうな唸り声を漏らしながら、どうにか上半身を持ち上げた。
生徒に両脇を支えてもらいつつなんとか立ち上がるが、頭をだらりと重たげに下げている。

「うぇ…だ、大丈夫です」

弱々しく俯きながら返答する毛先からは、ポタポタというより、ボタボタとピンク色の液体が滴り落ちて床に染みを作っていた。

「佐久間、お前それ、髪の色…」
「んんっ…な、なに？」

言いかけて、誰かが言葉を飲み込んだ。
全員の視線は佐久間というより、佐久間の髪に向けられている。

だってそれは、誰がどう見ても無事じゃなかったから。

佐久間の髪の色が、液体がかかった部分から徐々にピンクに染まり始めている。
床に飛散したのと同じ、鮮やでビビットな桜色。
じわじわと、今この瞬間にも髪全体を浸食しようとするピンク色に、佐久間の近くで座り込んでいたレイブンクローの生徒が叫ぶように声を張り上げた。

「あの、俺、ごめんなさい…！ローブに足が引っかかっちゃって」

そっちはそっちで血の気の引いた真っ青な顔色を晒しながら、わなわなと唇を震わせている。

ようやく状況が飲み込めてきた。
ことの発端は、色変えの薬を提出するために席を立ったこの生徒。
彼が転倒した際に試験管を手放し、宙を舞ったその中身は佐久間の頭に付着した。

本当なら、俺にかぶるはずだったピンク色の魔法薬を。

佐久間は俺を庇ってくれたのだ。
佐久間を一方的に無視し続けている、性格が悪くて愛想のない俺なんかを。

両側で心配そうな顔で俺を支える生徒にお礼を伝え、離れてもらった。
その足でゆっくりと佐久間に近付く。

「佐久間、あの…その、」

どう切り出せばいいか悩んだ声は、おそらく蚊が鳴くよりも小さく掠れていた。
だけどちゃんと届いていて、俯いた佐久間の視線が俺の靴先を捉えたのが分かると、ゆっくりと頭をもたげる。

「ぇ、あ、阿部ちゃん、」

予想していなかった相手だったんだろう。
顔を上げた佐久間はピンクの髪の隙間から俺の覗き、パチパチと瞬きを繰り返し目ながら見開いた。
相変わらず大きな瞳だな、なんて思いながらも、しっかりと背中側には緊張が走る。

声は掛けたけど。
でも、何を言えばいい？
この場合、なんて切り出せば正解なの？