魔法と思春期 skab (ページ49)

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「んじゃ俺っち、全部入れちゃおー！」

聞くつもりがなくても聞こえてくる隣からの大きな声に、窯の上で丸ごと投げ込むつもりだった根っこを慌てて掴み直し、ナイフで三分の一だけ切り落とした。
絵筆を溶いたような、なんとも言えない濁った色をしている液体の中にドポンと音を立ながら吸い込まれたものを、木べらでゆっくりとかき混ぜていく。

「…みどり？」

窯の底から色鮮やかな緑が見えたのとほぼ同時に、教室のあちこちから、各々の色に変化した歓声が上がった。
もちろん、隣からも。

「佐久間は何色になったの？」
「俺はねー、緑！」

いや、なんで。

わざわざ違う分量を入れたのに、と思わず佐久間の方を見てしまった。
そしてバッチリ目が合う。
佐久間はこちらの窯を覗き込み「あれ？お揃いだねぇ〜」なんてふにゃりと気の抜けそうな顔で微笑んできたので、慌てて正面の黒板を向いた。
こっち見んな。

「では出来上がったものを試験管に移し替えて提出してください。皆さんの色を並べてみましょう」

あ、ちゃんと提出はするんだ。
言われた通り、試験管にドロリとした液体を落としていく。
教室内の照明に反応して、若葉色をした緑の中に、キラキラと細かな粒子のようなものが煌めいているのが分かる。
正確な用途は不明でも、単純に綺麗だなと思った。

先生の指示通り、順番に試験管を提出していく。
通路が狭いので、二人ずつ。
黒板の前で浮遊する赤、青、紫、黄など、色とりどりの液体の入った試験管はとても鮮やかだ。
同じグループの、前の席に座っていた生徒が提出し終えたところで、俺も席を立つ。
通路に出て一歩踏み出した。

その時だった。

「待って待って！！危ない！！」

そんな声が後ろから聞こえたかと思うと、振り返る間もなく勢いよく体が横に押される。
突き飛ばされた、と理解すると同時に、埃っぽい床に体を打ちつける衝撃と、何かが割れる音が同時に襲ってくる。
女子生徒の短く小さな悲鳴が上がり、続いて慌てたように誰かが叫ぶ声が追いかけた。

「阿部、佐久間、大丈夫か！！」

俺の元にすぐさま数人の生徒が駆け寄り、頭を打っていないか確認したのちに、すぐさま体を起こしてくれた。

何が起こった。

ぐらつく視界のなか、訳も分からず後ろを振り返ると、床に倒れ込んだままの佐久間の姿が飛び込んでくる。
その近くには割れた試験管と、散らすように床に広がったピンク色の液体。
その液体は佐久間の髪にべったりとこびり着いていた。