魔法と思春期 skab (ページ48)

今日:37 hit、昨日:5 hit、合計:61,709 hit

48 ページ48

_

指示されたのは、比較的簡単な部類の「色変えの薬」の生成。

なんだそれ、と思うかもしれないが、魔法薬の大半は結果よりも工程を重要視されることが多く、実は完成した薬の中に『用途不明』とされるものは少なくない。
この色変えの薬も正確な使用方法は謎である。

先生曰く「何かの色を変えたい時に使います」とのことだが、そんな状況などほぼない。
説明も雑。
要するに、これがただのレクリエーションであることは誰もが理解していた。

「人体に影響が出るような危険な薬ではありませんので、教科書通りの分量で楽しく作ってくださいね」
その言葉に、「はーい」とこの教室ではあまり聞かないような、緊張感のない声がぽろぽろと上がる。

「ねえねえ、この皮ってどれで削るの？」
「やっべ！入れすぎちった！」
「ちょい待ち！！なんか変な匂いすんだけど！！」
「なんか飛んできたぁぁ！！」

おいさっきから隣でうるせえな。

なんて、視界の隅で激しく動き回る金髪に注意することも出来ず、本日何度目かの舌打ちを我慢する。

静かにしろとは言われていないが、それにしたって佐久間はうるさい。
もうマジで、めちゃくちゃに、うるさい。

普段なら「うるさいんですけど」とレイブンクロー生が注意したら静かになるのに、今日はそういう日じゃないというのをみんな理解しているのか、誰一人声を荒げることもない。
物分かりが良すぎる。

だから突っ込みたくても突っ込めない、苛立ちだけが密かに蓄積されていく。

俺を除き、教室内は非常に和気藹々とした雰囲気のまま、実験は順調に進行していた。

雑談しつつ、グループごとの作業ではあるものの、材料や器具は一人一セットずつ配布されているので、最終出来には個人評価になるのだろうか。
なんて、成績のことを考えてみたが、内容的には低学年向けである今日の授業が評価に値するかも不明だ。

しばらくすると、手元の大釜から土っぽい匂いがうっすらと立ちこみ始め、教室内に充満してきた。

「最後に根っこを入れれば完成…らしいんだけど、これだけ分量書いてないね」
「あ、ホントだ」

誰かが気が付き、それぞれでレシピを見ながら首を傾げていると、佐久間が元気よく手を上げる。

「せんせー！この根っこってどれくらい入れたら正解ですか？」
「みなさんご自分の好きな分量を入れてみてください。その量で様々な色に変わりますから。色が変わって、泡が落ち着けば完成です」

その言葉に教室がわっと湧いた。