魔法と思春期 skab (ページ45)

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俺は慌てて否定した。

「別に何もされてないし、かなり真面目に授業受けてるよ」
「じゃあなんでダルそうなん？」

康二が聞き、俺の代わりにまたふっかが答えた。

「ずばり、ストレス！」
「………」

否定はしない。
だって本当にそう感じているから。
いっそ前みたく、こちらに何かしてくるとかならやり返す事も出来るのに、今も続く朝晩の挨拶同様、佐久間が必要以上に踏み込んでくることはない。

でもさぁ。
毎日毎朝毎晩、それから授業のたびに声を掛け続けられてみなよ。
嫌でも気になるじゃん。
嫌でも身構えちゃうじゃん。

思い出したらだんだんと、意味もわからず腹が立ってきた。

「もうなんなの、…本当にっ！」
「あ、阿部ちゃんがキレた」

ケラケラと楽しそうに笑うラウールに「キレてませんー」と子供みたいに言い返して、千切ったパンを放り込む。
奥歯で噛み潰し、沸々と湧き上がり掛けた苛立ちも一緒に飲み込んだ。
その様子をからかうつもりだろう。
ふっかがまた何か言おうと口を開く。
だけどちょうどそのタイミングで、俺たちの間の通路を誰かが横切った。

深緑色のローブはスリザリン生のもの。
鼻を掠める花のような甘い香水の香り。
視線を上げるよりも早く、俺に向かうはずだったふっかの声が、そちらに向く。

「翔太」

それに気が付いた渡辺先輩がぴたりと足を止めた。

「あれ、ふっかじゃん。…なんで後ろ側向いて飯食ってんの？」
「そっちに知り合いいるから」
「あー、なるほどね」

そっち、とふっかが指差した方に渡辺先輩が視線を寄越したので、俺とめめで軽く会釈をする。

いや、待て待て待て。
お二人さんはどういうご関係で。
ついこの間までは、知り合いでもなんでも無かったはずだよね？
なんでタメ口、なんで名前呼び？
当たり前のように渡辺先輩を呼び止め、親しげに話し始めたふっかを凝視するが、もちろん俺の視線に気が付くわけもない。

「良いよなぁ、お前らはテーブルが隣同士だからさ」
「翔太も舘さん呼ぶか、向こうで食べりゃ良いじゃん」

ふっかの提案に渡辺先輩は渋い顔をして首を振る。
舘さんとはもちろん宮舘先輩のこと。
もう一人のゆり組。
というか、渡辺先輩ってば舘様と一緒にご飯食べるのは恥ずかしいんだ。
なにそれ、めっちゃ可愛いじゃん。

「はう…」
「え、阿部ちゃん大丈夫？」

特大級のゆり組の供給に耐えられず、きゅんと切なくなる左胸のあたりを両手で掴んで悶えたら、めめに本気で心配された。