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「それでは上級魔法薬学の授業を開始します。教科書は三十二ページの第二章を開き、前回の課題を机の上に置いてください」
授業が始まるチャイムと同時に教室の後ろ扉が勢いよく開き、上等なローブを優雅に翻しながら、騒ついていた教室に先生が入ってくる。
俺が選択した上級魔法薬学の講師は七十代くらいの女性の先生で、『淑女』という言葉をそのまま具現化した柔らかい雰囲気の人だ。
白髪を綺麗に結い上げ、つばの広い黒色の三角帽子を被るその姿は、まさしく想像する魔女そのもの。
生徒からの人気も高く、一つ下の中級魔法薬学の授業の抽選は激戦だった。
中級は3年次の必修科目で、担当の先生が何人もいるのにも関わらず、この先生の授業だけは毎年定員を遥かに超える希望者が殺到するらしい。
だがしかし、である。
俺の読み通り、上級クラスにもなると魔法薬学は成分や性能、それから組み合わせも複雑化するのに加え、地味な座学も増えるせいか、こちらは定員割れ。
三十人程度を収容できる教室には、七、八人の生徒の姿しか見えない。
それもそうだ。
ほとんどが生まれながらにして、感覚で魔法を使う環境で育った生徒が、わざわざ理屈じみた、より論理的な授業がメインになる上級者クラスを選択する必要はない。
魔法薬学はいわばマグルの世界でいうところの医学に近い。
だから当然、授業の難易度はおそらく学校の中でも最高レベルになる。
そして週一の課題提出は必須。
結果的に毎年成績上位者ばかりが集まるようになったこのクラスが『オタク』『物好きの集まり』と影でそう呼ばれていることも知っている。
ただこの場所は俺にはとても居心地がいい場所になる。
はずだった。
一人の生徒の存在を除いて。
「阿部ちゃん、課題集めるからもらってくね」
「………」
はい、とこちらに差し出してきた手に、無言のまま今週分の課題を差し出すと、見慣れた金髪はへにゃりと笑って受け取り、別の生徒にも声を掛けに行く。
マジで、なんなん。
ふっかが以前「授業被ったらどうするの?」と聞いていたことがあったが、まさか本当に授業が被るなんて思わないじゃないか。
教室内で佐久間を見かけた時、何の冗談かと思った。
だって、最高難度と言われれいる魔法薬学の選択授業だぞ。
俺以外の四年生なんていないし、佐久間以外の五年生も一人しかいない。
しかもスリザリン生に至っては、俺と佐久間の二人だけ。
あとは揃いも揃ってレイブンクローの五、六年生という布陣なのに。
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みな(プロフ) - はじめまして。面白いです。ホウキとか杖とかも出てくるんでしょうか?続き楽しみにしておきます。 (9月15日 6時) (レス) id: 2fd29c3102 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらちね | 作成日時:2023年9月13日 14時