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一週間ほど前。
俺が談話室に一人でいたところを
「こんばんは。あの、阿部先輩、ですよね」
そう言って遠慮がちに声を掛けられたのがきっかけだった。
俺よりも高い身長を勢いよく屈めながら綺麗に腰を折っためめは、そのまま「お願いがあります」という切羽詰まった言葉と一緒に『初級呪文学』の教科書を突き出した。
あまりに必死すぎる様子に、気を張るのを忘れた俺が「ちょっと待って、どういうこと?」と尋ねれば、見た目にそぐわない弱々しい声で「その、今度、留年がかかった追試がありまして」と歯切れの悪い返事が返ってくる。
こんな中途半端な時期に、もう留年の話が出るってどういうことなの。
愕然としていると、それがめめにも伝わったらしい。
本人曰く、呪文学の先生から「ここまで教えてもどうにもならないなら、同じ寮の阿部に聞け」と匙を投げられたとのこと。
職務放棄も甚だしいとは思ったが、いつまでも『スリザリンだから』という理由で寮生との交流を断ち続けるのもどうかと考え始めていたこともあり、これも何かの縁だと呪文学を教える事になった。
猛勉強の末、追試は見事合格。
結果として、俺はめめに懐かれた。
談話室にいる俺を見かけると、嬉しそうに手を振って駆け寄って来てくれる。
静かに本を読んだり、課題を教えたり、雑談をしたりと、何をするかはその時々によって違うが、いつでも大型犬のようにニコニコ笑って楽しそうにしているめめの側は、ふっかと一緒にいる時と同じような居心地の良さを感じた。
今では俺のことを「阿部ちゃん」と呼ぶようになり、俺もそれに倣って「めめ」と呼んでいる。
俺が紹介したふっかともすぐに仲良くなった。
そして友人が一人増えると、人脈はどんどんと広がっていくもので。
めめと同学年であり親友である向井康二、ラウールを紹介され、すぐに意気投合した俺たちは、ふっかを交えた五人の、通称『ほぼマグル会』を設立し、週三回ほど一緒に昼食を食べるようになった。
めめ、康二、ラウールの三人は一年からきちんと学校に通っているので、あちらの方がだいぶ先輩ではあるのだが、そこは学年順ということで、向こう側が俺たちを先輩として立ててくれている。
「でも俺たちの仲だし、敬語は無しね」
そう提案してくれたふっかには感謝である。
ちなみにラウールはレイブンクローの三年生で、めちゃくちゃ頭が良いことで有名だったし、向井康二の方も、実はふっかからその名前を随分前に聞かされていた。
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みな(プロフ) - はじめまして。面白いです。ホウキとか杖とかも出てくるんでしょうか?続き楽しみにしておきます。 (9月15日 6時) (レス) id: 2fd29c3102 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらちね | 作成日時:2023年9月13日 14時