魔法と思春期 skab (ページ39)

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さらに翌日。
俺の学校生活に、また少し変化が現れる。

いつものように日の出と共に目が覚め、ほとんど意識のない状態でパジャマから制服に着替えていく。
歯を磨き、顔を洗い、手に残った水で髪型を適当に整え、最後にローブを纏えばひとまずの身支度を完成させた。
石畳の細い螺旋階段を軽快に降りながら、あふ、と欠伸を噛み殺す。
スリザリンの談話室は低めの天井とか、黒を基調にした家具とか、いつでも薄暗い印象しかないけれど、早朝のこの時間だけは静かで、それなりに明るくて、密かに俺は気に入っていた。

特に誰もいないところとか。

「ぁ、阿部ちゃん。お、おはよっ」
「………」

なぜ。

この時間、誰もいないはずの談話室に、佐久間がいた。
それどころか、

「あ、阿部ちゃん？」

なぜ友人でもない俺を『阿部ちゃん』と親しげに呼び、挨拶をしてくるのだろうか。
大きな目をしきりにパチパチと瞬かせているその姿はいつ見ても猫っぽい。
驚きと困惑で固まってしまった俺の元に、探り探りといった感じに佐久間が歩み寄ろうとしてきたことで、慌てて意識を引き戻した。

素早く佐久間の横を通り抜けると、一切振り返ることなく談話室を出ていく。
昨日もこんなことがあった。
佐久間から何か言われそうになって、俺は逃げた。
そしたら今日になって、声を掛けてきた。
意味が分からない。
食堂へと急ぎながら考えを巡らせても、佐久間の意図がちっとも理解できない。
何がしたいの、アイツは。

食堂前で先に待っていたふっかが、俺の顔を見て少し焦ったように「何かあった？」と駆け寄って聞いてくる。
それぐらい分かりやすく狼狽えていたらしい。
食堂のいつもの席に座りながら、ついさっき起こったことを伝える。
ふっかは少しだけ考えたのちに、

「多分、悪意はないんじゃない？」

そう結論付けた。

その日をきっかけに、佐久間の謎の行動は、大変残念なことに朝の日課の一部に加わってしまった。
無視していればそのうち飽きるだろう。
そう思っていたのに、いつからか、夜まで声を掛けてくるようになっていた。
談話室から部屋に戻って寝ようとすると、決まって佐久間は俺の背中に向かって、

「阿部ちゃん、お、おやすみ」

と、独り言のように小さく声を掛けてくる。

本当に、これだけは起こらなくても良かった変化である。

もちろん佐久間の挨拶を返したことはない。
その度にチクリと胸が痛むような感覚にはなったけど、俺には関係がないことだと言い聞かせた。