魔法と思春期 skab (ページ38)

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机の上に忘れていた本を手に取り、鏡の前で少しだけ身だしなみをチェックしてから自室を出る。
良くいえば趣のある、悪くいえば今にも崩れ落ちそうな古臭い石畳の螺旋階段を足早に駆け降り、先ほどの談話室に再度顔を出した。

俺が自室に戻ったからだとは思いたくないけど、最初のように賑わいを取り戻している談話室。
なんだかこの一瞬のうちに部屋の人口まで増えた気がする。
実際に生徒の数は増えていた。
談話室の入り口の方が、かなり賑わっている。
寮の出入り口は一箇所しかなく、今まさに授業が終わって戻ってきたばかりなのか、教科書数冊を抱えた上級生の姿が一塊になっていた。
その中心には、よく目立つ金髪の男、佐久間もいる。

遠くからでも目立つ金髪を盛んに揺らしながら、他の生徒と同じように教科書を抱えて談笑し、その姿は普段の様子と何も変わらない。
彼があまりにも普通に過ごしているものだから「あれ、俺昨日アイツのことしばいたよな？」と疑ってしまいそうになったが、まあそんなことはどうでもいい。
すでにふっかは図書室で待っているはずだ。
入り口でたむろしている集団の間を抜ければいいだけのこと。
俺には何も、関係ない。

鼻から息を吸いこみ、丸まりかけていた背筋をきちんと伸ばす。
意識をして鳩尾に力をぐっと込めると胸を張って一歩踏み出した。

縦に長い談話室の構造のおかげか、部屋の真ん中あたりまで近づいても、入り口付近でたむろしている佐久間たちがこちらを見ることはない。
このまま突破できるかも、と思っていた矢先。

「あ、あれ阿部じゃん」

佐久間の近くにいた『ゆり組』の片割れである渡辺先輩が、あっさりと俺を見つけて声をあげた。

その声に弾かれたように佐久間の顔がこちらを向く。
一瞬だけギクリとした、怯えたような表情になったのを、見逃さなかった。
「見えてませんよ」を体現するために、俺は唇をキュッと結び、顔からできるだけ表情を消す。
集団に近付けば人混みは勝手に左右に割れてくれた。
そこから取り残されるように立っている渡辺先輩と佐久間の間を通過する。
渡辺先輩には、なんとなく会釈した。
無視されるかなと思ったが、意外にも渡辺先輩は律儀に

「おう」

そう言いながら返してくれた。
かなり戸惑った様子ではあったけど。

すぐ近くでは、黒曜石のような大きな瞳を瞬かせながら佐久間が俺を見ている。

「あのさっ……」

聞こえた声を思わず払いのける。
逃げるように談話室の扉を押した。