魔法と思春期 skab (ページ37)

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「てかさ、今日は何もされてないの？起きて何か変わったことなかった？」
「………知らん」

というのも、朝が早過ぎるせいで、まだスリザリンの生徒の誰とも顔を合わせていないのだ。

ふっかがせっかく気にしてくれているのに、安心させる返事ができず申し訳ないと思っていると「何かあれば言うこと。あと、許されざる呪文も軽率に使うなよ」と最後に釘を刺される。

なんだ。
ふっかの心配とは、怒ると周りが見えなくなる俺自身のことだったか。

「善処します」

あいまいな返事をしてその場は適当に切り抜けた。

＊＊

ふっかの言っていた変化を実感したのは、放課後になり、図書館へ行こうとした時である。

借りていた本をうっかり自室に置き忘れてしまったのを思い出し、普段は立ち入らない時間に寮へ戻った。
扉を抜けた先、この時間の談話室にはそこそこ生徒がいて、各々思い思いの場所で過ごしながら適度に賑わっていたのだが、俺が入ってくるのが分かると、水を打ったように静まり返る。
しまった、と思ったものの、これまでの雰囲気とは明らかに違う事に気が付いた。
いつものマグルに対する敵意とか、哀れみとか好奇心とか、そういう感情ではなく、化け物を見るような目。

マジか。

談話室のなかをぐるりと見渡せば、視線を向けた先にいる生徒が、ギクリと肩を跳ね上げて次々に視線を逸らしていく。
あまりにも露骨に逃げるものだから、おかしくなって口の端が持ち上がりそうになった。

どうやら佐久間に頼んだ言伝は、スリザリン全体に浸透しているようだ。

一歩を踏み出し、意気揚々と談話室を歩く。
養成所に通っていたおかげで、本来、人から注目されることには慣れている。
昨日までは俯いて足早に歩き過ぎていた談話室を、初めて胸を張り、堂々とローブを翻しながら歩いている事が信じられない。
当たり前のことが当たり前に出来る。
叫びたくなるくらい嬉しかった。

ランウェイのごとく談話室を歩き切り、自室に戻った俺は、扉が閉まると同時に耐えきれず「よし！」と小さく叫んで拳を握りしめた。
全部終わったんだ。
このあと会うふっかにも、良い報告が出来る。

今後の魔法学校生活は、人間関係に苦慮することなく、より充実したものになると確定した。

これからは教科書が破かれることも、靴の中にミミズを入れられることも、羽ペンが折られることもない。
言われのない敵意を向けられてさえいなければ、別にこの寮で孤立することに、なんら不満はなかった。