魔法と思春期 skab (ページ35)

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全身の毛が逆立つような雰囲気は阿部ちゃんから消えたものの、特徴のある三白眼で、未だに佐久間を蛇のように睨みつけていた。
すっかり自信をなくして小ネズミのように縮こまった佐久間が可哀想に思えてくるほどに。

シンプルに、どうして阿部ちゃんがスリザリンに選ばれたのか分かってきた。

偶然でも間違いでもなく、必然だったのだ。

帽子は正しく、阿部ちゃんの本当の素質を見抜いていた。

学ぶこと、知を求めることへの貪欲さと、ひたむき過ぎる向上心。

誰にも負けたくない。
その分野では、必ず自分が一番になるんだという野心。

己の決めた目的を成し遂げるためであれば、手段も、犠牲さえも問わないと考えられる冷酷さ。

そしてもう一つ。
阿部ちゃんは友達を思いやる気持ちが人一倍強い。

実際ここに来た理由だって、俺の足を治すことが目的だった。
自分の人生を投げ打ってでも友人を助けようとする異常なまでの慈悲の精神。
これもまた、この寮の特性。
スリザリンは創設時の経緯から、他の三つの寮と一線を引いている。
純血で結ばれた確固たる仲間意識と、阿部ちゃんの俺に対する家族同等の感情は、どこか酷似する部分がある。

つまり阿部ちゃんは、半純血なだけで、素質はほぼ完全にスリザリンなのだ。

毒牙の抜かれた、おそらく素の状態の佐久間と、逆に色々と解放して自分に正直になった阿部ちゃん。
俺からしてみれば、この二人には共通点が無いように見えて、もしかしたら何かしらの通じるものがあるんじゃないかとさえ思う。
あくまでもこれは、俺の勘。

「あとさっきは仲良くしてね、とか言ったけど、別に今さら佐久間と仲良くなりたいとか一ミリも考えてないから安心して良いよ。その代わり、俺がこの学校を卒業するまでは平穏に過ごさせて。こっちからも近づかないから」

でもまあ、この様子じゃ二人が親しくなるのは難しそうだけど。

佐久間が解放されたのはそれからすぐのこと。
阿部ちゃんからの肉体的、精神的な攻撃をどうにか耐え抜いた佐久間は、よろよろと子鹿のように立ち上がると、近くで伸びていた取り巻きをどうにか起こして出口に消えていった。

静まり返った図書館のなか、ローブの裾についた埃を払いながら立ち上がり、ふん、と満足そうに鼻を鳴らした友人の横に並ぶ。

「お腹すいたね」
「ほんと、すっかり遅くなっちゃった。ふっか、ごめんね」

念願の倍返しの勝利をもぎ取った阿部ちゃんは、立派なスリザリン生の顔をしていた。