魔法と思春期 skab (ページ34)

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ローブの袖を捲り腕時計を見れば、もうすぐ夕食の時間になろうとしていた。

そろそろ片付くかな、なんて二人をぼんやりと眺めていると、しゃがみ込んでいた阿部ちゃんが体勢を崩して本格的に腰を落ち着かせた。
胡座をかき、じーっと佐久間を見ている。

えっ、と思わず声が漏れてしまい、慌てて口を塞いだ。
困惑している佐久間とも目が合う。

まだ終わらないの？

猫のような瞳が俺に訴えかているが、「知らん、こっち見んな」と声に出さずに伝えて首を振った。

「この際だから言わせてもらうけど、」
そんな前置きから、阿部ちゃんの説教が始まった。

ダメだ、これは確実に長くなる。

俺は覚悟を決め、阿部ちゃんの背後で体育座りをして待つことにした。
こうなってしまった阿部ちゃんは、誰にも止められない。

「小耳に挟んだんだけど、佐久間のお父さんて魔法省に勤めてるんだって？」
「はい」
「父親が官僚だろうが、佐久間がスリザリンの寮でどんなに権力があろうが、『マグル』の俺には一つも関係ないんだよね」
「はい」

床をトントンと指で叩きながら、阿部ちゃんの口は止まらない。
相当鬱憤が溜まっていたみたい。
言葉に緩急はなく、ただ事実を相手に突きつけていくような、言ってしまえばめちゃくちゃ嫌な詰め方である。
少なくとも俺だったら、こんな責められ方をされたら泣くね。

「俺ね、すっごーく好奇心が旺盛だから、使ってみたい呪文が山ほどあるの。何を使って良いか悪いかじゃなく、それを学んだ自分が使えるか使えないかを確かめたいっていう興味の方が勝ってる。
この意味、分かるよね？」
「…はい」

「なら良かったー」と阿部ちゃんは安心したように胸を撫で下ろした。
さっき俺が阿部ちゃんに向かって咄嗟に投げ、そのまま床に転がったままの『闇の魔法使いのための呪文全集』という禁書の文字は、おそらく佐久間の目にも入っていたようだ。
阿部ちゃんは続けて、まるで小さな子供に問いかける口ぶりで佐久間に尋ねた。

「佐久間はこれから寮に帰ったら何をするんだっけ？」
「えっ…？」
「なにを、するんだっけ？」

尋問するかのように、ほんのわずかに目が細まる。

「…あ、阿部さんに、手を出さないように、みんなに言います」
「そうそう！
良かったぁ、そこまでバカじゃなかったんだね」

音のない拍手をしながら頷いて喜ぶ阿部ちゃんは、さながら悪役のようだった。

「……」

だからこっちを見るな佐久間。
俺はいま、気合いで気配を消している。