魔法と思春期 skab (ページ33)

今日:45 hit、昨日:5 hit、合計:61,717 hit

33 side_fk ページ33

ずっと疑問に思っていたことがある。

シンプルに、どうして阿部ちゃんが、スリザリンに選ばれたのだろうかと。
組み分け帽子が決めたから。
もちろんそれはそうなんだけど。
そうじゃなくて、人間の根の深い部分にある考え方とか資質とか、もちろん才能なんかを加味して判断されるんだとしたら、どう考えても阿部ちゃんはスリザリンなんかではなく、レイブンクローだと思うんだよね。
頭良いし、誰にだって優しいし。
それがなんでわざわざ、よりにもよって本人とは一番かけ離れたスリザリンを、組み分け帽子が選んだのかなーって。

でもね、
今回の一件でなんとなく、その理由が分かっちゃった。

「せーんぱい♡」

なんて可愛らしく小首を傾げ、指で掬い取った汗をそのまま佐久間の唇に押し当てている阿部ちゃんを見ていたら眩暈がした。

阿部ちゃん、それは別の意味でやりすぎ。

阿部ちゃんは身長こそ平均より高いけど、中性的で柔らかい雰囲気のせいか、同性からも女神だ女子アナだともてはやされる程度に男受けする。
アイドルを目指していた名残りか、ファンサービスにもあまり抵抗がないようで、時々間違った距離感で接することもままあるわけで。
見かけたら都度注意するようにはしてるんだけど、まさか今ここでそんな行動をするとは思わないじゃん。
さっきとは別の意味で顔を赤くした佐久間を見て、心から同情する。

もてあそばれてるなぁ、と。

「佐久間ぁ」
「ヒィ」

緊張感のない顔にイラッとしたのか、阿部ちゃんが低い声で佐久間を呼びつけた。
はっと置かれている状況を思い出したのか、みるみるうちに顔から血の気が引いていくのが分かる。
さっきまでの威勢とか威厳が嘘みたいに、佐久間は膝を抱えて小さく纏まりながら、阿部ちゃんという目の前の脅威にろく視線を合わせることも出来ず、右に左にと大きな瞳を泳がせまくっている。

佐久間たちにちょっかいをかけられるようになってからの阿部ちゃんの信念は「倍返し」
これは割とガチめな声のトーンで、本人の口から聞いたから間違いない。

今まさに目の前には、たまーにレッスンの時にも見たことがある、阿部ちゃんの戦闘モードの顔。
理不尽な怒られ方をしたり、納得いかないことがあったりすると、実は俺なんかよりも断然早く、阿部ちゃんは「やる気」スイッチが入るのだ。

実は女神でも女子アナでもない。

か弱そうに見えて逆境にはめっぽう強いし、メンタルもえげつない、それが俺の知る阿部亮平という男である。