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冷たいものと温かいものをぶち撒けたような、そんな不思議な感覚だった。
怒り、憎しみ、悲しみといった負の感情と、魔法使いらしく魔法で戦っているという興奮とが、まるで水と油のようにいつまでも混ざり合うことなく、俺の内側をぐるぐると忙しなく駆け回る。

この場から逃げた男たちのことはどうでもいい。
追いかけたところで、顔も思い出せない。
だけどこの男、佐久間だけはどうにかしなければと、いじめられるようになってすぐ、割と早い段階から思っていた。
ようやくそれが叶うのだ。

これからの行為は、脅しでも警告でもない。
少しの緊張と、それを遥かに上回る期待に、杖を持つ指先に力が篭った。

意識したわけではないのに、口の端がわずかに持ち上がった。
こちらへ来て一ヶ月。
そう。
まだ、たったの一ヶ月しか経っていない。
俺の勉強量、特に呪文学の習得に関しては才能も相まって、もはや常識を逸脱するペースだと自分でも理解している。
だけどそれを知る者は少ない。
俺にはマグルの世界にいた、という免罪符がある。
「魔法界のルールをまだ理解していませんでした」と眉を下げて悲しそうな顔をすれば、馬鹿みたいな言い訳だって通るはずだ。

そうでなくても、『許されざる呪文』なんて俺には知ったことか。


「クルーシ
「阿部ちゃんそれはマジでダメ!!!」


ふっかの声と一緒に勢いよく分厚めの本が飛んでくる。
それが杖とは反対側の俺の腕に当たり、わずかな痛みと同時に体がぐらりと傾いて気が逸れた。

「逃げろ!」

ふっかの声に反応した佐久間が素早く踵を返し、図書館の入り口に向かって勢いよく走り出す。
咄嗟に舌打ちが出る。
体勢をもう一度立て直し、杖をしっかりと握った。

逃がすものか。

「レビコーパス」
「うわっ!!」

数メートル先、真っ直ぐに伸びた通路を走っていた佐久間の体がふわりと浮いた瞬間、空中でぐるりと勢いよく逆さまにひっくり返った。
釣り針に片足を引っ掛けられたような体勢で俺の背丈ほどの高さまで吊り上げられると、だらしなく着こなしていたローブやシャツが重力に負けて胸元まで捲れ上がる。
やや幼ない印象の顔には似合わない、筋肉質な上半身を露出させながら、佐久間は小さく唸り、釣り上げられた魚のように暴れていた。

「阿部ちゃん!」

必死に呼び止めるふっかの声も今は関係ない。
杖の先は常に空中を捉えたまま、深緑色のローブを翻しながら早足で佐久間に近付いた。

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みな(プロフ) - はじめまして。面白いです。ホウキとか杖とかも出てくるんでしょうか?続き楽しみにしておきます。 (9月15日 6時) (レス) id: 2fd29c3102 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そらちね | 作成日時:2023年9月13日 14時

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